第42話 春香vs千夏 あーん合戦
「ちょ、ちょっと千夏! なにしてるし!」
「あら、なにかしら?」
「なにって、わたしが先にこーへいに『あーん♪』してたんだけど! 割り込みだし!」
春香が必死に自分が先だとアピールする。
すると、
「私、なんでも早い者勝ちで決めるって考え方は良くないと思うんですよね。ああでも早い者勝ちってことなら、幼馴染の私はずっと航平のことを知ってる一番の『早い者』ってことになるんでしょうか? どう思います、春香?」
千夏は倍返し――どころか10倍返しくらいでさらっと返してみせた。
「うぅっ! ううぅっ!! なにかあるとすぐに幼馴染をアピールするんだから! な、なら! わたしなんてこの前一緒にこーへいと寝たんだもんねー! ぎゅってされたんだもんねー!」
「ちょっと春香!? 誤解を招くような言い方はやめような!?」
激しくヒートアップする2人を一歩引いた場所でハラハラ見守っていた俺だったけど、さすがにこの爆弾発言をスルーするわけにはいかなかった。
なにせクラスメイトの視線が痛すぎるから!
特に男子の視線が刺すみたいです!
春香は千夏に煽られてちょっと我を忘れちゃってるみたいだし。
「誤解じゃないもん! こーへいのベッドで一緒に寝たもん! こーへいとベッドで抱き合ったんだもん! 力づよく腰をぎゅってされたもん!」
その言葉に静まり返っていた教室が今度は激しくざわめいた。
「俺の春香ちゃんが……大人の階段を……」
「現実ってツラいな……でも春香ちゃんはお前のじゃねぇからな……」
「どうやったら俺、広瀬になれんの?」
「広瀬、お前を殺す……」
特に男子から俺を呪う
でもほんとにほんと、そう言う意味じゃないんだけど!?
単に寝ぼけた俺が春香をベッドに引っ張りこんじゃっただけなんだけど!?
いやそれはそれで問題ではあるんだけどね?
「ああ、航平は抱きつき癖がありますからね。航平が寝ているところに上がり込んで、寝ているのをいい事にキスでもしようとして近づいて、引きこまれたんでしょう?」
そんな周囲の注目の視線を気にも留めることなく、千夏はさらっとそんなことを言った。
「ええっ!? こーへい、あのこと話したの!?」
春香が裏切者!みたいな顔で驚いたように俺を見た。
だけど、
「話してないよ。今のは千夏がかまをかけたんだ。ただのハッタリだよ」
「ぅええっ!?」
「ふふっ、春香のそういう正直なところはとても美徳だと思いますよ? これからも素直な可愛い子でいてくださいね」
「ううっ! 引っ掛けなんてずるいし!」
騙されたとわかった春香がムキー!ってなった。
「まぁまぁ落ち着いてください。それに一緒に寝たというのでしたら、私もよく航平とは一緒に寝たことがありますし」
「ふふん、そんなこと言ってどうせ子供の頃の話でしょ?」
春香が今度は勝ち誇ったように言った。
今日の春香はいつにも増してくるくるとよく表情が変わるな。
千夏にいいように遊ばれてるとも言えるけど……。
「そうですね、中学2年の終わりくらいまででしょうか? よく土日に2人で、お互いの家にお泊まり会とかしてたんですよ」
「おう”ぇぇっ!?」
春香が女の子がちょっと出してはいけない感じの奇声をあげた。
「ちょ、千夏、その話は今はいいだろ――」
そして俺はそんな春香よりももっと激しく焦っていた。
というのも、
「もちろんお互いのベッドで一緒に寝ましたし、一緒にお風呂入ったりとかも普通でしたし。なんと言っても航平とは家族ぐるみの付き合いですから」
言いやがった!?
千夏のやつ、教室でとんでもないことを言いやがった!?
ちょっとやましい気持ちがなくもなかった俺の秘密の隠しごとを、みんながいる前で言いふらしやがったぞ!?
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