第40話 春香vs千夏 初めまして。
「ああそうです、千夏でいいですよ。航平も昔からそう呼びますし」
『昔から』のところに妙に強いアクセントがあった――気がした。
なんだろう、ちょっと胃がキリキリしてきたような……。
「なら相沢さん――千夏もわたしのこと、春香って呼んでください。初めて会った時からこーへいもそう呼んでくれてるので」
今度は『初めて』に妙に強いアクセントがある――気がした。
「春香――春の香りなんて、柔らかくてとてもいじらしい素敵な名前ですね。これから来る夏のために、せっせと頑張って力をつけてる期間って感じです」
千夏がにっこり笑顔で言った。
えっと、今のは褒めたんだよな……?
褒めてるよな??
「千夏こそ千回もめぐる夏なんて優雅で情熱的な名前だよね――ちょっと重すぎるくらい」
そして春香もそれに負けないくらいのいい笑顔で言葉を返した。
褒めてるよね、うん、褒めてる。
どっちも褒めてるよ。
間違いない!
「うふふふっ」
「えへへへっ」
ふたりが満面の笑みで笑い合った。
な、なに!?
なにが起こっているの!?
言葉のジャブをバシバシ打ち合ってる感じなんですけど!?
ビシバシ音が聞こえてきそうなんですけど!?
「これからよろしくね、春香」
「こちらこそよろしくね、千夏」
かたずをのんで見守る俺を尻目に、2人は満面の笑みで握手をした。
傍から見ればどう見たって気が合う2人の女子高生って感じだった。
――だっていうのに2人の握手によって戦いの火ぶたが切られたように感じられたのは、俺の気のせいなのだろうか?
「と、とりあえず自己紹介も済んだことだし、遅れないように学校行こうぜ、な?」
俺は内心びくびくしながら2人に声をかけた。
すると、
「ええ、行きましょう航平」
「いこっ、こーへい♪」
2人は俺の腕を両サイドから抱きしめるように絡めとってくるんだよ。
まるで自分のものだとでも言わんばかりのアピールのように感じてしまったのは、これも俺の気のせいだったのだろうか……?
っていうか、このままサンドイッチ状態で学校に行くの?
さすがにそれはちょっと――じゃなくてとても大変なことになりそうなんだけど……。
特に千夏はクール美人で、春香いわく入学そうそう告白をいくつも断ってる有名人らしいし。
「ねぇあの、これでどこまで行くのかな? 嫌とかじゃなくて、ちょっと歩きにくくない? だからそろそろ離れたほうが――」
「ほら、千夏。こーへいが離してって言ってるよ?」
言いながら、春香が甘えるようにぎゅっと身体を寄せてくる。
俺の二の腕に春香の柔らかい胸がむぎゅっと押し付けられた。
「春香こそ、まるでオオオナモミみたいですよ?」
千夏も負けじとくっついてくる。
「おーおなもみ?」
春香がキョトンとした。
「いわゆるくっつき虫のことですね」
「むむっ、それなら千夏だって一緒だし。ひっつき虫だし」
「それはええもう、私と航平は幼馴染ですから当然ですね。オナモミです」
「どんな論理だよ」
めちゃくちゃな論理展開を俺は鼻で笑ったんだけど、
「ぐぬぬぬっ……」
なぜか春香は「悔しい! やられた!」って顔をしていた。
うん、女の子の気持ちはよく分かんないなぁ。
っていうか全然離してくれそうな気配がないんですけど……えっと、あの、お二人さーん……?
ちなみに千夏の態度がちょっと気になったのでネット調べてみたら、くっつき虫はくっつき虫でも、オオオナモミは侵略的外来種ワースト100に指定される厄介者なのだそうだ。
日本に昔からあった本来のオナモミは、オオオナモミの前に完全に駆逐される寸前なんだって。
もしかして敢えて使い分けたのかな?
自分がオナモミで、春香は駆除が必要なオオオナモミだって。
千夏は頭がいいから言葉を分けて使った以上、絶対に理由があるはずなんだけど。
怖いね、色々……うん、深く考えると色々と怖い。
だからあまり考えないようにしようね!!
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