第33話 「ねぇこーへい、今日えっちしよ?」

 春香とのいつもの学校帰り。


「やっと終わったし……」

「高校の勉強は結構ハードだよな、宿題も多いしさ。ついていくだけで、精いっぱいだ」


「ほんと疲れるよね。よーし、しんどいことは忘れて、早く帰って部屋でお話しよ♪」

「だな」


 今日は学校帰りに、春香の家に寄ることになっていた。


 家が近いんだし、最初はいったん帰って着替えてこようと思ってたんだけど、


「もう、こーへいは分かってないなぁ。制服のままで学校帰りにあれこれするのがいいんじゃない。そっちの方が、後で青春時代の想い出って感じしない?」


「あー、確かにそれはあるかも。今はそれが当たり前だけど、学校の制服を着れるのって実は今だけだもんな」


「ってことで、今日は制服で放課後おうちデートね!」


 そんな感じで、今日は直接春香の家にお邪魔することになってたんだけど、


「ね、ねぇ、こーへい……?」

「ん? どうした?」


 帰り路にあるコンビニの前で、春香がおずおずと言った。

 ものすごく真剣な声に聞こえたので、俺もしっかりと聞く体勢をとる。


「ねぇ、こーへい……ゴ、ゴム買ってこっか?」


「ゴム? ヘアゴムかなんかか? コンビニ寄るなら、俺もついでにアイス買ってこっかな」


 どうも大したことじゃ、なかったっぽいな。

 ただの俺の勘違いか。


「そ、そうじゃなくて、ゴ、ゴムはゴムだし……」

「?」


「だから、そのっ!」

「なんだよ? お気に入りのパンツのゴムでも切れたのか?」


「そんなわけないでしょ!? だからコンドームだし! コンドーム! って、女の子になに言わせるかな!?」


 ニブチンな俺にプッチンした春香が、クワワッ!って言った。


「こ、コンドーム!? って、えぇ? あの、だって、えぇっ!? な、なんで!?」


 そして突如として春香の口から飛び出した、そのデンジャラス過ぎるパワーワードに、俺は混乱を隠せないでいた。


 コンドームってだってほら、あれでしょ、あのほれ、えっと、ええっ!?


「だってこーへいは、わたしのことを好きかもでしょ? だったら一緒にいてムラムラしてくるかもしれないでしょ? ならつけないと、できちゃうかもだし」


「つ、つけるって、なににだよ……で、できちゃうって……な、なにがだよ……」


 俺はなんかもうテンパってしまって、完全にしどろもどろになってしまっていた。


 だって暑いからアイス買おうかなとか平和に思ってたところで、可愛い女の子からコ、ココ、コンドーム買わないとか言われたら、普通キョドるだろ!?


「うー、もー、こーへいってば分かってて言ってない!? ナマでヤったら妊娠しちゃうかもでしょ!」


「ナマでヤる!?」


「あ、ナマのがいいとか思ってるんでしょ! もうこーへい、わたしたち高校生なんだから避妊はちゃんとしないとだし! 計画性のない男はダメなんだし! ゴム付けるのは男の義務だし!」


「いや俺も男はちゃんとつけるべきだと思うけど……特に学生は……じゃなくてその、だって、それってその……あの……」


 それってつまり春香と俺が――、


「ねぇこーへい、今日えっちしよ?」


 顔を赤らめた春香が、とびっきりの上目づかいで言った。

 恥ずかしさを必死にかみ殺して頑張って言ってみました感が、すげー可愛すぎるんだけど!


「ブッ! ゲホッ、ゴホッ、エホッ……」

 そして俺はそのあまりのインパクトの大きさに、思わずせき込んでしまった。


「なにその反応……すっごく傷つくし……」


「いやだってそんな、え、えっちする?とかいきなり言われたら、ビックリしても仕方ないだろ? だって俺たちまだ高校生なんだぞ? しかも入学したての1年生だ」


「『もう』高校生なんだし。クラスの女子だって、もう何人か初体験しちゃってるよ?」


「うそぉ!? マジで!?」


「なんでそんなに驚くし……高校生なら別に早くもないでしょ? こーへいって意外とピュアなんだね、かわいー♪」


「うわ、マジなのか……」

 クラスの女子を見る目がちょっと変わりそうだ。


「だからね、今日うち誰もいないし……こーへいがえっちしたいなら、い、いいよ?」

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