第31話 放課後マックデート(前編)

「ねぇねぇこーへい、帰りにマック寄っていこーよ」


 帰りのショートホームルームが終わるとすぐに、前の席の春香が振り返って俺に声をかけてきた。


「いいぞ。マックシェイクの新作が出たから、ちょうど行きたいなって思ってたところなんだよな」


「さすがこーへい、詳しいじゃん。さすがマック博士だね。新作のラムネ味シェイク、実はわたしの狙いもそれだったり」


「みんな考えることは同じか。あと俺はクラスの奴が話してるのを聞いただけで、別にマックの専門家でもなんでもないからな? なんだよマック博士って」


「照れない照れない。わたしは褒めてるんだから。じゃあすぐいこーよ。込む前にいい席取りたいし」

「りょーかい」



 というわけで、俺と春香は学校帰りに近くのマックに寄ることにした。

 店に入ってまずはレジに並んだんだけど、


「こーへい、なに見とれてるし!」

「べ、別に見とれてないだろ……」


 俺は速攻で春香に怒られていた。

 列の3つほど前に、いかにもお嬢さまって感じのすごい美人がいて、おおっ!て思って、ちょっとだけ見てしまったのだ。


 ……ほんとちょっとだけだったんだよ、ちょっとだけ、俺的には。

 だって言うのに、


「めっちゃガン見してたもん。鼻の下伸びてたもん。まったくもう、こーへいは美人を見るとすぐこれなんだから……まぁちょっと似てるもんね……ふぅ……」


「べ、別に千夏は関係ないだろ」


「わたし似てるって言っただけで、相沢さんと似てるなんて一言も言ってないんだけど?」

「…………」


 くっ、春香のやつ、しおらしい顔をしながらヒッカケしやがったな!?


「あーあ、やっぱこーへいってさらさらの黒髪ロングが好きなんだなぁ」

「別にそう言うわけじゃ……ないこともないけど」


 春香に嘘をつくのがなんとなく嫌だったので、俺は素直に答えることにした。


「わたしの髪ってナチュラルに茶色っぽいんだよね、今度美容院行ったら黒染めしてもらおっかなぁ」

「春香は今のままで十分に――その、可愛いと思うぞ?」


 俺はちょっとだけ勇気を出して、歯の浮くようなセリフを言ってみたんだけど、


「ほんと? じゃあ聞くけど、相沢さんとわたしの髪、こーへいはどっちが好み?」


 ふぅ、やれやれそう来たか。

 慣れないことはするもんじゃないな。


 っていうか、これ答えないとダメ?

 間違いなくどっちの答えを選んでも、答えなくても、なにしてもアウトだよね。

 うんわかる。


 俺はわずかな逡巡しゅんじゅんの後、答えた。


「…………春香だよ」


「ぜったい嘘だし! 今めっちゃ間があったし!」

「えっとその……」


 春香に嘘はつきたくないけど、それでもここは優しい嘘をついた方がいいかなって。

 それに茶色っぽい髪もゆるふわな可愛い感じも、春香にはよく似合ってると思うんだよ。


「あーあ、なんでわたしの髪は茶色いかなぁ……この髪のせいで中学の時も脱色するなーって、生活指導のセンセーに目付けられてたしさ」


 春香が前髪をつまみながらぼやいた。


「春香の髪は似合ってると思うし、今のままでいいって思ったのは本当なんだ。明るい性格の春香には、明るい茶髪はすごくよく似合ってるよ――と思うから」


「嬉しいこと言ってくれたのに、最後にちょっとヘタレちゃうところがこーへいらしいね」

「悪いな、なかなかすぐには変われなくてさ」


「いーよ。こーへいのそういうヘタレで恥ずかしがり屋なところ、わたし結構好きだもん」


「お、おう……そうか……」


 くっ、そんな自然に好きとか言うなよな、心の準備ができないだろ?

 俺は春香に好きって言われるたびに、毎回ドキっとさせられてるんだぞ?

 この前のキスとか思いだしちゃうんだからな?


 とまぁ、そうこうバカップルしている内に、俺たちの注文の順番がやってきた。


 ラムネ味のシェイクとあとは適当に注文してから、俺と春香はカウンター席に隣り合わせで座った。

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