第27話 「こーへいの手、あったかいね」

「こーへいはさ?」


「ん?」


「こーへいは、相沢さんとは手をつないだりしなかったの? 幼馴染だったんだよね?」


 昨日、千夏の話題を振られた俺が感情を爆発させてしまったからか、春香がちょっとだけ聞きにくそうに、でも勇気を振りしぼった様子で聞いてくる。


「千夏とはよく繋いでたよ」


 だから俺はもう全然問題ないよってことが伝わるように、ことさらに優しい口調を意識してそう答えた。


「そっか……やっぱり相沢さんは特別かぁ」

 でも、春香はちょっとだけ残念そうだった。


 そう意味じゃないんだけどな。


「うーんと多分、春香の考えてることの逆だと思う」


「逆?」


「今日は距離が近いな、ちょっと手を伸ばしたら春香と手を繋げるかもって思ったらさ。なんか今までに感じたことないような、恥ずかしさとか緊張がぶわって押し寄せてきて、変に春香のこと意識しちゃってさ。そしたら手をつなぐ勇気が出なかった。だから特別なのは春香の方だと……その、思う……んだけど」


 千夏相手には、あまりに当たり前すぎて意識したことすらなかった感覚で。


 そして春香と手を繋ごうとしてできなくて、でもなぜか心がポカポカするその感じは決して嫌なものじゃなくて――。


「そっか……うん、そうなんだ。わたしが特別……えへへ、特別かぁ……じゃあ、はいっ!」


「ぁ――」


 瞬間、俺の右手が春香の左手でそっと軽く握られた。

 手のひらから、春香の体温がじんわりと優しく伝わってくる。


「せ、積極的だな……」

「だってこーへいがヘタレだから、これくらいしてやっとプラマイゼロだし!」


 そんなイケイケで強気なことを言ってはいるものの、春香の顔はやっぱり恥ずかしさで真っ赤っかなのだった。


「わたし決めたんだもん、こーへいのこと絶対ゲットするって」

「ゲットするって俺はポケモンかよ……」


 そういや春香はポケモンG〇やってるって言ってたっけか。


「もちろんわたしがこーへいにゲットされても、全然オッケーなんだけどね?」

「お、おう……」


 不意打ちのように春香が可愛いすぎる上目づかいで見上げてきて、そしてドキッとした俺はそんな春香に気の利いた言葉を返せないでいた。


 変わろうと思ったけど、やっぱりそこまで急な一歩は踏み出せない俺だった。


「それでね? 心の距離を縮めるにはまず身体の距離を縮めないとだよね。そう思ったわたしは、積極的に半歩ほど距離を詰めてみたのでした」


 今や春香の顔は耳まで真っ赤で、よほど恥ずかしいのか目が合わないようにと俺の反対側に視線を向けている。


 でも手は繋いだままだから、2人の距離は相変わらず近いままだし。


 恥ずかしいけど勇気を出してちょっとだけ頑張ってみました、っていうその感じが、くっ、すごく可愛いぞ……!


 なんだこいつ、可愛すぎだろ。


 今までも可愛い女の子だと思っていたけど、もしこれが自分の心と向き合おうと決めたばかりの元ヘタレ男子でなければ、雰囲気に流されて抱きしめちゃったりするところだ。


 だから俺は――握った春香の手のひらを少しだけ強く握り返した。


「ん――っ」

 そのことに気づいた春香の身体に、一瞬ピクっと力が入る。


 まだ抱きしめたりはできないけれど、それでも春香の気持ちは伝わってるよっていう、俺の心に届いているよって言う、それが今の俺にできる最大限のアピールで。


「こーへい」

「な、なんだよ」


「こーへいの手、あったかいね」

「春香の手もあったかいよ」


「それにすごくおっきくて男の子らしいし」

「春香も小さくて、その……女の子らしい可愛い手をしてる……な」


「えへへ、こーへいに褒められちゃったし。今日はいいことありそっ」


 ピースケの散歩が終わるその時まで。

 俺と春香はずっと手をつないだままでいたのだった。


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 いつもお読みいただきありがとうございます(*'ω'*)


 書籍版第1巻は、ここまでのお話に“数万字”の加筆修正を加えて出版する予定となっております。


 春香と航平、千夏のメイン3人の掘り下げに加えて、


・新キャラ(女の子)が登場!!

・完全書き下ろしの新規エピソードを多数追加!!


 などなど、ふんだんに盛り込んだ学園「アオハル」ラブコメになる予定なので、皆さんどうぞお楽しみに~!(*''ω''*)


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『実質同居の幼馴染』(一二三小説大賞銀賞受賞!)🌸ほぼ公式🌸広報アカウント

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