第5話

 ネルはあくむにうなされたような声をあげてとびおきました。もうすぐ日のでをむかえるじこくです。

「え? なんでわたしはいえにいるの?」

あかりがしょうじのすきまからもれている、ご主人さまのへやにネルは入りました。

「ネル! だいじょうぶかい?」

「しー。まだ大きな声をだしちゃいけないんだよ」

「そうだけど……」

「でもどうしてわたしはいえにいるの? おとこの人は? ああおとこの人っていうのは……」

「わかるよ。たいへんだったんだね。ほんとうにごめんね」

「うん。うん? なんであやまるの」

「なんでも。もうだいじょうぶだから、もう一かいねてきなさい」

「うん」

ご主人さまはつくえにむかったままでした。心なしか、目があかくみえます。いえのなかにいるのに、きものをなんまいもかさねぎしていました。ネルはそんなことをしつもんするじかんもなく、ふとんに入りました。しめわすれたしょうじを、ご主人さまがパタンとしめました。木と木がぶつかる、きみのいいおとがネルをねむりにいざないました。





 ネルはけっきょく、あさはやくにおきました。まだあくむが心の中にのこっていたようです。からだがおもうようにうごきません。たちあがっても、ふらふらとよろけてしまいます。ねむいめをこすって

「とりあえず、かんたんなあさごはんつくらなきゃ」

と台どころに入りました。つめたい水でかおをあらうと、だいぶねむけがとびました。ごはんをたいて、さかなをやいて、そのあいだにご主人さまをおこしにいきました。


 ご主人さまはつくえにつっぷしていました。

「またしごとのとちゅうにねむっちゃって」

ネルはいつものようにかみをかたづけようとしましたが、今日はそのひつようがまったくないのにきづきました。せいぜんとならべられていて、ひょうしもできていました。

そこにネルはこうかいてあるのをみつけました。カタカナとひらがなでかかれていました。


「ネルとのおもいで」


ネルはしぜんとなみだがでてきました。そのすすりごえがご主人さまの目をさまさせました。

「おはようネル。かんせいしたよ」

「おめでとう」

ネルはご主人さまにだきついていいました。ながいながい二日でした。それがとうとうおわったのです。ご主人さまのあたまがゆれました。

「ぼくもちょっとだけがんばったよ。ネルには一日まけたけど」

「そんなことないよ。がんばったね」

ネルとご主人さまのおなかがどうじにグーとなりました。二人はわらいました。

「さあごはんにしようか」

「それわたしが作ったからわたしのセリフ」


 おひるになるまえにご主人さまはできたてのにっきをもってご主人さまはでかけていきました。そのついでにネルがマッチをうってかせいだお金をもってつけをはらいます。やっと二人の一年がおわるのです。


そしてこの「ネルとのおもいで」は年があけるちょっとまえにはっぴょうされることでしょう。たくさんの人がこのにっきをよみます。そのお金がご主人さまのところに入ってくることでしょう。つつましいながらも、けっしてお金にこまらないせいかつができます。そうにきまっているのです。

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ネルとのおもいで 大箸銀葉 @ginnyo_ohashi

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