第30話 ポーカー

 前話の記述を一部、変更しました。

 ポーカーのルールに勘違いがあったための修正です、


──────────────────────────────



 慣れた手つきでカードの山をシャッフルし、ディーラーのサイキは、俺とラナを含めたプレイヤー達に笑いかける。


 このカジノの遊戯大会におけるポーカーでは、俺たちプレイヤーは他のプレイヤー+ディーラーと勝負する。


 ゲームの進行はまずこうだ。


 ①プレイヤーがアンティ(賭ける)

 ②手札となるカードが配分

 ③任意枚数のカード交換

 ④手札の開示

 ⑤勝者がアンティの倍額を受け取る


 ディーラーの手札は常に1枚が開示されている状態となり、それは自分の手札交換においてある程度の指標となる。

 賭け金はプールされ、勝者に勝者のアンティの倍額が払われ、まだプールされた賭け金が残っている場合は、ディーラーのもとへ入る。

 逆にプールされた金額から、勝者への払いが足りない場合は、ディーラーの手持ちから払われる。

 

 相対的にディーラーは不利であり、あくまでゲームを楽しむための装置に過ぎないようだ。

 これはディーラー自身はアンティ出来ない事からも明らかである。


「では、第一ゲームを始めましょう。アンティをお願いします」


 サイキの指示で最初の賭け金を決める。

 俺とラナは目線で話し、とりあえずまわりと手慣れてそうな奴らと似たような金額を出した。

 俺とラナが出したのは500チップだ。


「いや、もう少し出しておこうかな」

 俺の隣のふとった親父が、スーッとチップの山を動かした。

 ふとった親父のアンティは初っ端から倍額の1,000チップだ。

 

 そんな賭けて良いのかよ? とドキドキしながら見ていると、サイキはカードを分配し始めた。


 5枚揃うまで待っていると、ふとった親父が話しはじめる。


「お若いの、ポーカーは初めてかな?」

「っ」


 いきなり話しかけられてびっくりする。


「なに緊張することはない。ただの運試しだよ。VIPルームでのテーブルに着くには、今日自分に幸運が向いているか、向いていないか、たったそれだけで決まるのさ」

「……そうか」

「そうだとも。なあ?」


 ふとった親父が、ほかの二人のプレイヤーに話を振ると、彼らは穏やかなに笑って見せた。

 テーブルが和んできたあたりで、カードが配られ終える。

 

 プレイヤーは皆に見られないようにカードを確認し始めた。

 ディーラーは確認する前に一番右の1枚をめくり、残り4枚を自分で確認する。

 

 俺の手札には♠︎6と❤︎6、♣︎2と❤︎2がそろっている。

 おお。これは悪くないのでは?

 俺は先に渡された役の早目表で、ツーペアがどれくらいの強さか見る。


 そして、カード交換で1枚だけ交換する事にした。

 やったぞ。6か2が来ればフルハウスで強力な役が出来上がるじゃないか。


「ふーん、1枚交換か〜。ツーペアくらいの手札がそろってのかな〜」

「ィ……」


 またしても、ふとった親父が喋りかけてきた。

 思わずドキッとして、早目表をガン見してた目をそらす。

 ふとった親父はニヤニヤ笑いながら、無言で2枚をディーラーへ渡して、新しい2枚を受け取る。


 俺は心臓バクバク鳴らしながら、ディーラーの渡されていた新しい1枚を手札には加えた。


 やがて、手札の開示の時がやって来た。


 俺の自慢のツーペアは、ふとった親父の同じ数字3枚──スリーカードによって破れてしまった。


「第一ゲームは、ラナ様の勝利です」

「え?」

「ん?」


 俺とふとった親父は、ともに間抜けな声を出して、ラナの開示した手元を見る。


 そこには、スリーカードが揃っていた。


「なんか揃っちゃった」

「あちゃ〜同じスリーカードでも、わしのは8が3枚。君のはQが3枚だ。役が同じなら数字の高い方が強い」

「おおっ、流石はラナ。さすラナだ」

「ふふん♪」


 ラナにはポーカーのセンスがあったらしい。

 序盤、ラナは持ち合わせた運で勝つことができた。

 俺のチップは減り続ける一方だったが。


 ──しばらく後


 しかし、状況は変わり始める。


「Kのスリーカード。わしの勝ちかな」


「ぐぅ……」

「勝てなくなったんだけど、なにこのゲーム」


 最初、調子が良かったラナは眉をヒクつかせカードを握り潰しそうになっていた。

 俺は負け続けてるせいで、もうストレスでどうにかなりそうだ。


 ただいま第7ゲームが終わったところ。


 ふとった親父は独走し、手持ちのチップは1万5,000まで膨らんでいた。

 

「このゲーム舐めてたかも……」

「エイト、あと3回のうちに金額で勝たないとVIPルーム入れないよ?」

「わかってる! 今、考えてるって」


 俺は額に青筋うかべながら、アンティタイムで自分の手元に残された5,000チップを指でいじくる。


「……チッ」


 しかし、頭を使ってもルールに沿って動いてる以上、やはり運でしか勝てないような気がした。

 いいや、それだけじゃないのはわかってるんだ。

 このふとった親父め。俺の顔を見たり、最近アルカディアで起こったイベントを話題にして他愛のない話をしてきやがって。


「ああ、そういえば、そうそう。友人のつてで聞いたんだけど、どうにも我らがリーダーたちが本格的に地上へ乗り出す目処をつけたって言ってたなぁ〜」

 

 また、ふとった親父が喋り出しやがった。


「まじかい。この40年間ずっと黙りだったのに、今さらなにしようってんだろうな」

「さあて、どうだがね。わしも超能力者様方の考えてることなんか、わかりゃせんからな。……ただ、聞くところによると、どうやらアナザーたちの使う魔法をどうにか利用するとか……」

「魔法を? 生物進化の到達、俺たちの超能力に淘汰されたチカラなんぞに、なにができるってんだい。くだらない」


 世間話を始めたことに、さりげなく耳を傾ける。

 

「アンティを」

「ぁ」


 待たせすぎて、サイキが俺の目を見ながら催促してきた。

 俺はとりあえず500チップ出そうとし──思いとどまる。


 アナザーの魔法?

 それって奴らからして俺たちの不思議なチカラってことか?


 俺はふと、隣のテーブル、そのまた隣のテーブルを見る。

 指先にわずかにほとばしる感覚。


「……そうか。そうだよな」


 俺は何か光るものが閃いた気がした。

 俺はなにをお行儀よく戦ったいたんだ。

 さっき、札の絵柄を指で削り落として、俺はここに座ってるんだろ。

 ならば、やるべき事があるはずだ。


「オールインで」


「オールイン?」

「…………え?」

「おいおい、それってまさか──」


 俺は手持ちのチップの山をガサッと全部前に押し出す。俺の財産──残された5,000チップ全てをアンティする事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る