第28話 カジノへの侵入

 

 ラナと隣立って『中央発電区』をいく。

 奴隷服を捨てたおかげで割合にアルカディアの街の雰囲気には溶け込めている。今のところバレる気配はない。良い感じだ。


「それでエイトは、ファリアちゃんがどこにいるかわかるわけ?」

「『液体金属』の反応は完全に見失ったけど、そもそも奴隷を買うくらいの金持ちだ。アルカディアの有力者なのは間違いないだろうから、聞きこみすればわかるはず」


 俺は提案して、ラナと一緒にオークション会場近辺へと戻って、調査をすることにした。


「もしもし、少しいいですか?」


 ラナはオークション会場裏で、女性をつかまえる。女性はラナを見るなり、どういうわけか目を見開いた。


「はうんっ、良い゛! こんなカッコいい子にはお姉さん何でも教えてあげちゃうわ!」


 どうやらラナの容姿が好みだったらしい。

 ラナは人当たりの良い笑顔で、さっそく質問する。


「ウォルターオークションで奴隷の女の子が落札されたって話を聞いたんですけど。その落札したのって誰かわかりますか?」

「あっ、話題の『地上のアナザー』ね! 話によれば、あの氷室四天王の小峰マクレインが落札したらしいわよ」


 氷室四天王?

 氷室ひむろって、確かアルカディアを統治するほどの最高権力者のひとりだったはず。

 さっきの銃使いは、氷室の側近のひとりだったのか。ふむ…。


「それじゃ、もうひとりの方の奴隷はどなたが落札したんですか?」

「もうひとり……ああ!人魚のアナザーね。たしかあっちやつを落札したのは、ウ・チェンよ」

「ウ・チェン?」


 聞き慣れない響きの名前だ。


「あら、彼を知らないってことは、別の区画から来たのね。いいわ、これも教えてあげる! ウ・チェンとはまたの名を『ギャンブラー』として知られる勝負師よ。自前のカジノを経営していて、そこをめったに動かないことで有名なの!」

「ほう、その話、詳しく──」


 女性からいろいろ、有力な話を聞けた。

 

 いろいろ、知らない単語が出てきたため、頭が混乱しそうであった。女性に礼をいって離れた先で、ラナも俺も同じように腕を組んで悩ましい声をだしていた。


「カジノ? そもそもカジノってなんだろ?」


 これも知らない言葉だ。


「さあ……なんだろな。……まっ、とりあえず行き先は決まった。もろもろ進展したし、ガアドに連絡した方が良いかもしれない」

「あ、でた、噂のガアド。アルカディアの事はアルカディアの人間に聞くべきね。それじゃ、次はその人のところへ戻るの?」


 聞いてくるラナに、俺は薄く微笑み、ポケット空間からスマートフォンを取り出す。

 ラナは目を丸くして俺の取り出した、アルカディアのアイテムを見つめる。驚いてる驚いてる。良いリアクションだ。


 俺はラナに、この未知の機械のことを、丁寧に説明した。

 とはいえ、俺はガアドに教えられた通り、ポチポチいじって、画面を操作しただけだが。


 ラナの前でガアドに電話をかけてみる。

 数秒の後、通話は繋がってくれた。


「こちらガアドだ。電話をよこすという事は何か問題が発生したのかね、エイト」

「これからファリアを助けにいくとこだ。中間報告をしようと思ってな」

「わかった。続けろ」

「オークション会場でのトラブルを避けるために、その場は参加者に落札させた。して、その落札した男だが、ウ・チェンとか言う金持ちらしい。あんたの娘は、そのウ・チェンっていう奴にカジノに連れて行かれた可能性がある」

「ウ・チェンか。パシフィック・ディザステンタの操り人形だな。詳しい事はわからないが、手下に『ディーラー』と呼ばれる手強い超能力者がいる。気をつけろ」

 

 頭の隅に危険があることをとどめて、今度はカジノという場所について聞いてみた。

 ガアドの説明は簡潔でわかりやすく、おおよそカジノがどんな場所か把握できた。


「もし私の娘が連れて行かれているとしたら、ショーに出すつもりかもしれない。うちの子は最高に可愛すぎるからな」

「……そうだな。覚えておこう」


 俺は一言答え、スマートフォンのマイクを口から離す。

 ラナと顔を合わせて、すこし迷ってから、ふたたびガアドに話しかけた。

 今、聞いておくべきだ。


「ガアド」

「どうしたね、エイト」

「ひとり……アルカディアから連れ出したい人間が増えたんだが、その場合もあんたの知っているっていう地上への帰還は叶うか?」

「……どういうことだ?」


 ガアドが胡乱げな声をだした。

 機嫌が悪くなっているように感じる。


「エイト、まさか娘に一目惚れして、そのまま駆け落ちしたいという話ではあるまいな?」

「ボケてる場合か」

「ボケてない。私はいつだって本気だ」

「そうか……なら、あえてはっきり言おう、全然違う。そんな心配は1ミリもしなくていい」

「ふむ、ファリアを助けたあとに同じことを言っていられれば良いがな。……まあ、いい。数人増えたところで地上行きのチケットに支障はないと言っておこう」


 俺はラナの顔を見てうなずいた。


「ありがとう、ガアド。それじゃ、あんたの娘のことは任せてくれ」

「これは取引だ。娘を必ず連れて帰れ。……お前の未来のためにも、な」


 ガアドは重い口調で念を押してきた。

 俺は黙したまま受け止めて、通話を切る。

 

 通話が終わると、すぐにラナが喋りかけてきた。


「厳しそうな声だったわ。エイトって今の人の娘さんを助けにいくって事でいいの?」

「そういうこと。それじゃカジノとやらに行くか」


 俺はラナとともにカジノへ向かった。


 ──しばらく後


「わあ! すごいわ」

「ぅわ……」


 俺とラナはカジノに足を踏み入れるなり、その迫力に固まってしまっていた。

 広々とした空間。ウォルターオークションの会場どころではない間取り。

 天井高くからは輝くシャンデリアがいくつも下げられ、綺麗なガラス細工を用いた飾りが、光を乱反射させて垂れ下がっている。

 フロアには多くのテーブルが用意されており、金持ちそうな人間たちがお喋りをしながら遊戯を楽しんでいる。

 

 これがカジノか。

 大人の空気をビンビン感じるな。


「お客様、こちら両替所です、お先に進みください」


 カジノの入り口に突っ立っていると、身なりの綺麗な男に勝手に案内されてしまった。

 カジノのボーイであるらしく、俺たちが初めてカジノ来たことを教えると、心良くフロア遊戯のはじめ方を教えてくれた。


 その結果、ひとつの事実が判明する。


「お客様はただいまお金をお持ちでない、と?」


 どうやら、このカジノ、最低でも10,000Aドルをカジノチップに換金しないと入場することすら出来ないらしい。


 申し訳なさそうなボーイに言われて、仕方なく俺とラナは来たばかりのカジノから退出せざる負えなくなった。


「お金がないと入れないなんて……」

「ガアドに頼ってみたら?」

「うーん……そうするか」


 俺は物陰に向かい、ガアドに再び電話する事にした。

 ラナはキョロキョロ辺りを見渡して、電話する俺を置いてどこかへ行く。


 プルルっと、1回コールしたら、すぐにガアドは電話に出てくれた。


「どうしたんだ、エイト。またトラブルか」

「ガアド、金がない」

「ん?」

「金がないとカジノに入れないんだ。俺もラナも金なんて持ってない。だから頼ってる。どうにかならないか?」


 俺は物陰からラナがどこかへ行かないか、チラチラと確認しながら聞く。不安になるからラナには離れないでほしいが……。


「なるほど。確かにそうなるか。了解した。両替用の金をこちらで用意しよう。どのくらいの金額だ?」

「10,000Aドル」

「ん。高いな……あのウ・チェンのカジノならありえるか」


 通話越しに不機嫌なガアドの空気が伝わってくる。

 俺は彼の返答を待った。

 その間、耳にスマホをあてながらラナの姿を探す。向こうのほうに行ってしまい、姿が見えない。どこ行ったんだろうか。


「エイト、簡単に金を手に入れる方法がある」


 しばらくの沈黙をやぶり、ガアドは閃いたように提案してきた。

 同時に、スマートフォンの向こうから「ぐぎぃ」という声も聞こえてくる。嫌な予感がした。


「偶然にも手元にすごく金になるダンゴムシがいてな。こいつを質屋におろせば、すぐにまとまった金が用意できそうだ」

「やっぱりそう来たか! おい、てめぇ、ふざけっ、絶対に、キングに手を出すなよ!」

「娘の命には変えられない。金が用意できたらまた連絡する」

「ちょま、本気か?!」


 ガアドは俺の言葉に構わずに言って、通話を切ってしまった。勘弁しろよ。

 まずい。

 あのじいさんマジでやる気だ。


「エイトー!」

「ラナ! ガアドのところに戻るぞ!」

「え、なんで?」


 俺はガアドという男が、俺の親友を金に変える邪悪な計画を練っていることを伝えた。


「あ、その件。解決したけど」

「ぇ…? どういうこと、ラナ?」

「お金を手に入ったって言ってるのよ」


 ラナは俺に財布を投げ渡してくる。

 中には目も絡む金額がはいっていた。

 ラナに話を聞くと、金持ちそうな紳士に、拳でお願いしたら、心良く貸してくれたらしい。なるほど、カツアゲして来たわけだ。


「流石はラナ……俺に出来ないことを平然とやってのける…」

「痺れるでしょ? ほら、エイト、はやくカジノに行くよ、ファリアちゃん助けないと」


 ラナに手を引かれて、俺たちはカジノに再び足を踏み入れた。

 両替所のボーイは、たった数分で大金をひっさげてきた俺たちにかなり困惑していたが、特に止められる事もなくカジノに侵入出来た。とりあえずヨシッ、だ。


 遊戯にいそしむセレブたちを見学しながら、カジノのすこし奥まったエリアまで進む。


「どうエイト、何か感じる?」


 言われてみて、俺は何百時間もいじくり倒した『液体金属』の気配を探った。

 さりげなく手のひらを″ぬくい″方向に向けることで、俺はカジノの奥の部屋に、俺が『液体金属』の粒を付着させた男──ウ・チェンがいることを察知する。


「ウ・チェンは見つけた」

「ファリアちゃんを落札したカジノのオーナーだよね。ファリアちゃんはここにいるのかな?」

「うーん。本人に聞いてみるしかないかな」


 とは言え、カジノの奥の部屋には易々と入れてもらえそうにはなかった。

 黄金の扉があり、その手前には、黒服にサングラスを掛けた、いかつめの護衛者がおり、扉をがっちり固めている。

 強行突破すれば、間違いなく余計なトラブルを呼びこむ。

 そして、超能力者『ディーラー』との戦闘も避けられない。

 まだ暴力に訴える時じゃないな。


「どうするか」

「やっぱり、倒して進むしか」

「ダメです、ラナさん。脳筋やめなさい」


 ──ヂィリ


 俺とラナが頭を悩ませていると、カジノ全体にノイズのような音が響いた。

 それは放送の予兆だった。


「お待たせいたしました! これより本カジノのオーナーと遊戯を楽しむ権利をかけて、恒例遊戯大会を開催いたします! ウ・チェン様とVIPルームでの勝負に興味がある方は、ぜひ3階フロアまでお集まりください!」


 放送はそう述べて、ブツリっと切れた。

 俺とラナは顔を見合わせる。

 そして、およそVIPルームとやらがありそうな、カジノ奥の扉を見た。

 考えてることはいっしよだ。


「ラナ、せっかく、カジノに来たんだし、俺たちもすこし遊んでいかないか?」

「流石はわたしの相棒。わたしも同じ提案しようと思ってた。遊ぶなら、特に3階フロアなんて良さそうじゃない?」


 俺とラナは顔を合わせ、うなすき合い、VIPルームで遊べるとかいう権利を得るために、カジノ3階フロアへ上がる事にした。




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