第18話 オークション


「さあ、まず最初はロナウド・ハラペニャーレ様からの出品『アルゴンスタ』です!」

 

 華奢男の堂々たる宣言とともに、ステージ袖からライトアップされた中央へ水槽が運ばれてくる。


 水槽にはとてもちいさなダンゴムシが入れられており、その体長はわずか20センチほどだと思われた(注意:決して小さくはない)


「では、最低額20,000Aドルからのスタートです!」


 司会の声を皮切りに、観客席からも声が上がり始める。


「25,000」

「30,000」

「40,000」

「50,000」

「65,000」

「100,000」


 最後に放たれたひとケタ違う価格の上昇を最後に、会場には沈黙がやってきた。

 

「……100,500」


 しかして、まだ20センチ級のアルゴンスタを諦めきれない声が響く。


 やがて、木槌がコンコンっと叩かれて第一の競り合いが終幕する。


 最終的に「120,000Aドル」という値段が小さなダンゴムシには付けられた。


 その価格がどれほどの価値なのか、俺にはわからなかったが、アルカディアにおけるおよそ凄まじい額のカネなのだろうと予想はついた。


 そこから、オークションには価値ある物──と思われる──品物が数々現れた。


 骨董品の銃、もう使われてない部屋の鍵、なんの役に立つのかわからない石っころまで出品されていた。


 どれにどんな価値があるのか、司会は軽く説明してくれたが、俺は興味を満足させることは出来なかった。


「さて、続きましては、皆さまお待ちかね! ″アナザー″の登場です!」


 司会がそうつげると、オークション会場からどっと歓声があがった。


 アナザー?

 何かの俗称なのか……。


 湧き立つ声に、ステージうえにソレが運ばれてくる。


「っ」


 俺は思わず目を見張った。


 ステージうえに運ばれてきた巨大な水槽のなかには、彼女はいたのだ。


 最大に特筆するべき点は、やってきたそれが『人魚にんぎょ』である点だろう。


 下半身が艶々した鱗で大きなヒレがついている。まさしく人魚。それも麗しい少女だ。


 伝説上に存在すると言われ、アクアテリアスでも、男は誰しも人魚姫との恋を夢想した経験をもつソレである。


 俺は息を漏らしながらも、ガアドにもらった写真とその顔を見比べる。


 ビンゴ。

 あの人魚が目標

 ファリアとかいうガアドの娘だ。


 写真が顔だけなので気がつかなかった。

 てか、あの男、人魚が娘なのか。

 

「混血児ですが、この美しさ! しかも人魚の能力を母親より受け継いでいます!」


「凄い! 凄いぞ! まだ新しいアナザーが出品されるなんて夢みたいだ!」

「これは財産を投げ打ってでも取りに行く!」

「ああ…あの綺麗な顔を好きにできると考えると……ウヒヒ…」


 観客たち、それぞれが気合い十分だった。


「では、100万Aドルからのスタートです!」


「200万!」

「400万!」

「700万!」


 どんどん叫ばれる数字の大きさに驚く。

 

 さきほどまでの出品とは、その額が違いすぎる。


 あのアナザーと呼ばれる人魚には、それだけの価値があるということか。


「……」


 俺はステージうえの水槽をみつめる。

 

 水槽の中の少女は、目元をぬぐい、恐怖か、あるいは悲しさか──あふれる涙を堪えているようだった。


 少女の瞳からこぼれた涙は、真珠となって水槽の底に沈んでいく。


 涙が宝石になる。

 かの伝説はホンモノだったようだ。


 とても美しく、つい目を奪われる。


「…今助けてやるからな」


 俺はそう、ラナに似ているその少女の救済を、自分に言い聞かせるようつぶやいた。


 ふと、水槽のなかのファリアがこちらへ向き直った。


 その赤い瞳と目があう。


 俺はただじーっと見つめ、なんとなくウィンクしておいた。


 ファリアはハッとした顔で、俺の方を見つめるばかりだ。


「2000万!」

「…2050万!」

「……2053万」


 競り合いも佳境にはいり、いよいよ司会の男の木槌が打ち鳴らされた。


「近年ではとても貴重なこの『アナザー』は2053万Aドルでの落札です!」


 悔しさに会場をあとにする客。

 競り合い最後まで粘った勝者を称える拍手がオークション会場に響いた。


 俺はファリアを競り落とした勝者の顔を覚えて、ポケットから出した『液体金属』のひと粒をその男の服に付着させた。


 こうしておけば結界索敵網の要領で、ある程度の距離までなら、視界内にいなくても奴の居場所がわかる。


 オークションが終わり次第、俺はあの男から実力行使でもってファリアを救出する。


 完璧なプランだな。ふん。


「さあ、では次が最後の出品となります! 本日ウォルターオークションへやって来たすべてのお客様の幸運へ敬意を表させていただきます」


 今までとは趣の違う司会の態度と、緊張した顔に、オークション会場がざわめく。


 その気配は確実に″何か″が来る事を物語っていた。


「皆さま、我々アルカディアの真のなる目的とはなんだったか? いま一度思いだしていただけますでしょうか?」


 司会の問いかけに、観客席の者たちは真剣な顔になった。


「そう、我々は地上へ出なくてはいけないのです。しかして、我らのリーダー達はなかなか重たい腰をあげません。……ならば! 私たちは自分の手で地上を目指すべきなのではないでしょうか!」


 司会の熱い演説に、会場から拍手が贈られる。


 司会は「ありがとうございます、ありがとうございます」と形式にのっとった対応をして、いよいよ確信に斬りこんだ。


「これは超能力者ウォルター・ブリティッシュによる偉大なる成果です。ふるってご参加をお願いします……『地上のアナザー』の出品です!」


 司会の声と同時ステージ上に、ひとりと少女が鎖に繋がれてやってくる。


「……ッ」


 肌が泡立つ。

 喉が乾き、カラカラだ。

 目は現実を拒むように痙攣した。

 

「この美しき奴隷の名はラナ・アングレイ、ウォルター様によって、地上より捕獲された人類史上初の異世界領域のアナザーです!」




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