第3話 開幕

 ~1~


 イヤな予感よかんがする、とか思う前にき込まれるもんだよ?世界をのろって何が悪いのだろう。いつも思う。


「ン~~~~~~~~~~~~~~~!!!」


 ボクは頭巾ずきんをかぶされ、鎖で両手両足を拘束こうそくされていた。真っ暗で何も見えないし、身動きがまったくとれない。


(ヤバイ!これホントにヤバイ!!!)


 ここに来るまでの記憶きおくはないし、なによりも頭が痛い。無理矢理むりやり連れて来られたのだろう。

 複数の足音が近づいてくる。心臓が爆音ばくおんを上げる。マジでヤバイ。

 

「+K@G65?」


 野太のぶとい男の声が聞こえてきた。どうやらボクに語りかけてるっぽい? けど何言ってるかまったくわかんない。


「何言ってるのか全然―――――」


 ドカッ!とにぶい音とともに、強烈きょうれつ一撃いちげきが腹部をおそう。


「ヴッ……」


 鳩尾みぞおちに入った。まともに呼吸もできない。嗚咽おえつれる。


「☆N**/$2」


 たぶん「袋叩ふくとだたきにしろ」的なことを言ったのだろう。集団リンチが始まった。

 なぐる・る・棒みたいなもので叩くの三拍子さんびょうし。とにかくやりたい放題だ。もうわけがわからない。


「L*3K’#!」


 男の声でひとまず暴力のあらしは静まった。が、


「6J/H%0」


 今度はボクの上着を破き、無理やり仰向あおむけにしてくる。しかも両手両足を複数人で押さえつけてくる。なにが始まるんだ?

 ボコボコにされ、暴れる気力もない。執拗しつように攻められ過ぎて感覚がない箇所かしょもある。一言でいえば瀕死ひんしだ。


「$=\:7」


 その声とともに何かボクの胸に押し————————


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」


 ジュー!と音を立てながら皮膚ひふを溶かし、肉を焼いていく。理性ではない。痛覚つうかくのうに伝える確かな情報だ。


「ア゛ア゛ア゛ッ!!!!ヴヴォ!!ッガアァァアア゛ア゛ア゛!!!!!」


 完璧にさえつけられ、痛みから逃れることができない。しかもボクが暴れる度に顔面をなぐってくる。


「あああぁぁぁ………………………………………………………………」


 もう何が現実か理解できない。気が狂いそうになる。


「あははははははははははははははははははははははははは…………」


 わらいごえがきこえる—————————


「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイヒヒイヒヒヒヒイヒヒヒヒヒヒヒ…………」


 とてもたのしそうだ—————————


「ははっははははっはははっはっはははっははっはっははは…………」

 

 ぼくはたのしくないのに—————————


「っくくくっくくくくっくくっくっくくくくくっくくくっく…………」


 ぼくもまぜてほしいな—————————


 そんなことを思いながら、ボクは意識を手放した。意識を失う最後の瞬間しゅんかんまで、耳に笑い声が響いていた。




~2~



 誘拐ゆうかいされてから5日目。ボクは労働にいそしんでいた。


(あい、きぼう、ゆめ……ぜんぶしにました)


 ここの生活は最悪だ。環境かんきょう劣悪れつあくすぎる。完全に奴隷どれいあつかいだ。

 無理やりたたき起こされ、労働を強制される。くさった食べ物をあたえられる。しかも配給はいきゅうは二日に一回。独房はきたない上にトイレはない。


(今日は何されんのかな…………………………)


 さらに貴族きぞくみたいなヤツ(もう「クソ野郎」でいいか)が毎日ボクを拷問ごうもんするのだ。しかも内容が日を追うごとに苛烈になっていく。 昨日なんてボクは水責みずぜめを受けた。


(ボク何かしたっけ!?………今もしてるね…………………)


 実はずっと頭巾ずきんをかぶったままなのだ。ごうとするたびに、監視役かんしやく無理矢理むりやり阻止そししてくる。意味がわからない。

 仕方しかたがないので目と口の位置に穴を開けているが、これがまぁよく目立つ。周囲の目が痛い。


きず、治らないな~……………………)


 そんな生活を続けているので、ボクの身体からだは日を追うごとにぶっこわれていく。内出血ないしゅっけつ外傷がいしょうがひどくて目も当てられない。

 特に痛むのは、誘拐ゆうかい初日に胸を焼かれた箇所かしょだ。あれは奴隷どれいという身分を示すための焼印を入れるためだったのだ。


(どうしようもないよ…………………………)


 痛みでねむれない夜が続き、精神的にも肉体的にも限界が近づいていた。


理不尽りふじんな毎日をうらむむだけで、行動できないボクはヘタレなのかな?)


 そんな考えがよぎるも、抵抗ていこうする気力と気概きがいはすでにない。苦痛だけがそこにあった。




 


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