第2話 不義・不条理

 あくまでボク個人こじんの考えなんだけどね、『物語』って突然始まるものなんだ。本当に理不尽りふじんで最低だよね。反吐へどが出る!

 

 朝日が顔をだし明るくなってきた空の下、ボクはそんなことを思いながら川をながめる。

 よくある話だよ?人が流れているんだ。昔話でも人間が中に入った桃が流れるぐらいだからね。まぁ流木りゅぼくつかまっているぶん、こっちがマシだけど。


「あ……助けないと…かな?」


 人間の温もりだとか優しさだとか、そんなものを一切感じることのなかったこの一ヶ月。他人に対して無関心なのが当たり前になってしまったようだ。


「でも低体温症ていたいおんしょう―――――」


 突然ボクの中で何かがひらめいた。これはもしかして天からのおげではないか?コイツを助けて言葉を教えてもらいなさい、という。

 人は自分のいい方向にばかり考えると言われるが、悪いことばかり起きすぎてポジティブに考えないとやってらんない。

 とりあえず川から出そう、死んでたら持ち物をいただこうかな。


 ひとまず漂流者ひょうりゅうしゃを岸にあげた。普段ふだん街で見る人々とは違った服装をしていた。

 心臓の鼓動こどうを確かめる。動いてはいるがやはり体は冷え切っている。放っておくと死んでしまうだろう。

 水浸みずびだしの服を脱がそうとしたが、一瞬いっしゅんためらった。

 ムカつくほど美人だった。整った顔立ちをしているせいで、性別がまったくわからない。

 しかし人命救助のため服をがなければならない。これは大事なことなのだ。うん。


「…………………………やっぱり男だ」


 鼓動を確かめるため胸に耳を当てたが……これ以上は言うまい。

 全裸ぜんらにした漂流者をダンボールという絨毯じゅうたんの上に寝かせ、火のそばで体を温める。

 しかし体中に傷痕きずあとがあるのはどうしてだろう?まぁ特に気にならないのでそっとしておこう……


 それからしばらく経って男は目を覚ました。まだ意識が朦朧もうろうとしているのか、男はほうけた顔をしている。

 言葉が通じないとわかっていても話しかけずにはいられない。

 

大丈夫だいじょうぶ?」


  男はボクを見つめる。ボクを認識にんしきしてから男の表情は少しずつ強張こわばっていき、ついには泣きさけび始めた。


「?…………あっ」


 おじさんや初めて街に行ったときの人々の反応とそっくりだった。

 なぜかボクを見ると悲鳴を上げるし、石を投げられたりした。顔をかくすと誰も反応しなくなるのも不思議でたまらない。そんなにひどい顔してるかな?

 そんなことを考えているうちに、いつのまにか男は逃げ出していた。全裸ぜんらで、悲鳴を上げながら。

 なんて滑稽こっけい姿すがただろう!ボクもアイツも!


「アハハ!ノハ!…………ハァ~……」


 大きな溜息ためいきがこぼれる。それからボクは一日中燃えさかるたき火を見つめ傷心しょうしんいやした。 





 



 

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