第2話 YESの答えだけが聴こえる女子高生

▼0-2 プロローグ.②


 同じクラスの女子が四人。ぞろりと囲まれ逃げ場もない。そのまま校舎の隅まで連れていかれた。

 彼女らは、早くも形成されつつあるクラスの女子グループ、その中心にいる連中だった。

 リーダーの琴ノ橋鞠ことのはしまりは派手目な印象の美人で、誰であれ自分には親切で寛容であるべきだと思っているフシがある。そんな人だ。

「──っていうわけなの。ちょっと調べてみてよ」

 ゆるやかにパーマのかかったロングヘアをふわりとかき上げて、琴ノ橋さんは俺への要求を言い終えた。仕草の一つ一つが芝居のように様になる。悔しいが美少女だった。つまり、相手が美少女であることを悔しいと思うような、一方的な要求だった。

「いや……なんで俺が?」

 根本的なところを聞き返したが、琴ノ橋さんはこともなげに答えてきた。

「だって戸村くんの家、探偵事務所って言ってたじゃない。こういう調べ物の仕方とか、解るでしょ?」


 ……確かに、家の父さんの仕事にはそういう調査も多いと聞いている。でもそれは、あくまで父さんの仕事だ。当然だが、高校生になったばかりの俺が探偵の仕事を手伝ったことなんてない。

 無理だ。

 無理だから、その通りに答えて断ろうとしたのだが、

「えー、無理とかないでしょ」

「鞠がかわいそうじゃん」

「戸村が無理なら、お父さんにでも頼めばいいッしょ」

 取り巻きの三人からの援護射撃が無慈悲に突き刺さる。琴ノ橋さんは髪に手櫛を入れ、YESの答えだけが聴こえる白い耳を撫でていた。

 ここで無下に断れば、高校生活の出だしから、クラスの女子の大半を敵に回すことになるかもしれない。

 それに……ある理由から、俺は若い女性を苦手としている。嫌いなのではない。性根の部分で、なんとなく逆らえないのだ。

 彼女らの背は俺より低いが、その声は俺よりずっと高くて。

 俺は、まったくもって押さえつけられた。

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