探偵くんと鋭い山田さん

玩具堂/悠里なゆた/MF文庫J編集部

第1話 入学式の日の自己紹介で死んだのか

▼0-1 プロローグ.①


 ゆっくりと顔を上げたつもりだったが、鏡に映ったのは、不景気な面がのっそりと起き上がる様だった。

 昼休みも半ばの男子トイレに他の生徒の姿はなくて、だから特大の溜息を洗面台に落としても、誰かにうっとうしがられる心配もない。

 戸村和とむらなぎ、一五歳。我ながら、あかぬけない名前にふさわしい憂鬱な表情をしている。

 そんな自分から逃れるように廊下へ出ると、校内放送が耳に入ってきた。陽気なアニメソングなのに、教室から漏れ出た音が廊下に反響すると、幽霊が合唱しているようにうら寂しい感じがする。

 これも、今の心持ちがそう感じさせるのだろうか。

 高校生活が始まって十日ほど。そろそろ友人グループが固まり始め、廊下には昼食を終えて楽しげに語らう生徒たちがちらほら見える。

 そんな中で、俺だけが落ち込んだ気分でいた。こんなことになってしまった原因は、入学式の日の自己紹介にまでさかのぼる──


「戸村和です。部活とかは、特に考えてなくて……趣味は読書とか動画視たりとか……あとは、ええと…………

 家は**駅前で、戸村探偵事務所って……あの、西口の階段のところに看板貼ってあるやつです」


 ──緊張のあまり、余計なことまで口走ってしまった。学校の自己紹介で家の仕事なんて言うことないのに。

 他のクラスメートが存外に個性的だったり多弁だったりしたせいで、入りたい部活もこれと言った趣味もない俺は、なにか情報量が不足している気がしたのだろう。足りない部分を、親の珍しい仕事で埋めようとしてしまった。

 探偵と言っても、もちろん、ドラマやマンガに出てくるような難事件を解決して回る「名探偵」じゃない。個人や会社を密かに調査して依頼者へ報告する、いわゆる興信所だ。

 もう高校生なので、その辺は誤解もされなかった。

 小学校の頃は「お父さん、サツジンジケンかいけつしたの?」とか「コ○ンくんいる?」とか訊かれたこともあった。だがこの歳にもなると、夢のない、どちらかと言えば行儀の悪い職業だとみんな知っている。

 けど、それがいけなかった。


 ──戸村くん、そういうの詳しいんだよね?


 今朝、下駄箱で靴を履き替えている時、俺は捕まった。

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