第4話 魔王の遺産
「――いってててて……ったく、頭は駄目だってのに……」
「ほっほっほ、すまんのぅ。こやつらも悪気があったわけではないんじゃ。ちょっとじゃれつくのがへたっぴでのぅ」
「殺されるかと思ったわ!」
先の大広間にて、俺は腫れあがった後頭部をさすっていた。機械仕掛けのドラゴンやら動く鎧やらが悪質タックル(パロが言うには『親愛のハグ』)をかましてきたせいで、本日二個目のタンコブである。
ちなみに、犯人(?)であるポンコツ四人(?)衆は、反省アピールのつもりなのか壁際でしおらしく俯いている。どこのペットだよ。
「……で、それよりも、何か俺に言うことは?」
「いやぁ、本当に助かったぞぃ。礼を言うぞ、リク=クロノ……だったかの? 先ほどまでの無礼、謹んでお詫びするのじゃ」
そうそう、なにせ俺は窮地を救ったヒーローだ。感謝の言葉をもらうのは当然の権利だろう。……ただし、片方だけじゃあ足りないよなあ?
「ふむ、まあ及第点ってとこか。……で、そっちは?」
と、俺は口の悪い
それに対してセラはというと、なんとも渋い表情を浮かべていた。あいつ自身俺に恩義を感じてはいるが、素直に感謝するのは癪、ってところだろう。ざまあみろ。
そうしてセラが口にしたのは……
「……くっ……!」
「いや『くっ……!』じゃねえよ、なに屈辱の極みみたいな声出してんだよ。『ありがとうございます』だろうが!」
「……くぅっ……!」
「だからなんなんだそれは!」
「いやあ、すまんのぅ、セラは人間嫌いなものでのぅ」
のんびりと助け船を出すパロ。見た目は10歳ぐらいの少女だが、中身はどうにも大人らしい。実年齢は一体幾つなのか……というか、この際だしそろそろはっきりさせておこう。
「つーかさ、俺から見るとお前ら人間にしか見えないけど……魔物、なんだよな……?」
「ふん、当然だ。私は≪キラードール≫のセラ。主より命を賜った魔族だ。人間などと一緒にするな!」
「わしは≪フォレスト・ウィッチ≫のパロじゃ。よろしく頼むぞい。それと……‘魔物’よりは‘魔族’と呼んでくれた方が穏便かのぅ。‘魔物’は人間側の呼び方じゃ、気にする魔族もいるのでな」
≪キラードール≫やら≪フォレスト・ウィッチ≫というのは恐らくこいつらの種族のことだろう。とまあ、とりあえずの自己紹介が終わったところで、俺は話を先に進め……ようとしたのだが……
「……あー、そ、そいつらの名前も聞いていいか?」
反省タイムは終了したのか、ポンコツたちが「ボクの出番はまだかな?」みたいな顔でこっちを見ている。いや、どれも無機物系の魔物だから表情は変わらないはずなのだが……こいつらに関してはなぜかめちゃくちゃわかりやすい。
「そうじゃのぅ、では端からいくとするかの。そこの≪
どれも突っ込みどころのある名前だが、どうやら本人たちは気に入っているらしい。ポチと呼ばれたドラゴンに至っては「ワンっ!」と返事までする始末。それでいいのかお前。
なんだか気の抜ける自己紹介になってしまったが、俺はパロの何気ない一言で現実に引き戻された。
「みな種族は違えど、同じ王に忠誠を誓った大切な仲間じゃ。仲良くしてやっておくれ」
「仲良くって……ん? ちょっと待て、同じ‘王’に……?」
前提として、こいつらは魔物……いや、魔族なんだろ? だったらそれが仕える王って……
「お前ら……魔王の眷属なのか?!」
すると、パロたちは当たり前のような顔で頷いた。
「んー、まあそうじゃな。わしらの主・アムネス様は【荒野と捨てられたものたちの王】――人間からは確かに『魔王』と呼ばれておる」
パロの言葉を肯定するかのように、ポンコツたちがえっへんと胸を張る。
正直大したことない下級の魔族だと思っていたが、こいつら意外と大物なのか?
けれどそうなると、先ほどの諍いが不思議だ。どう見てもあのデーモンたちだって魔族。魔王の眷属を相手に喧嘩を売るなんて……
「あ、じゃあさっきの奴らは離反した元仲間、みたいな感じか?」
とりあえず一番有り得そうな仮説を口にする。……が、どうやらそれが地雷だったようだ。
「あんな外道どもと一緒にするなっ!! 奴らは卑劣なる【宝石と謀るものたちの王】の眷属だ! 我らとは違う!」
と、セラは烈火のごとく怒り出す。
だがそんなことより、今、違う魔王の名前が出て来たような……
「もしかしてなんだけどさ、この世界……魔王ってたくさんいる……?」
「そりゃそうじゃよ。ざっと200は越えていたはずじゃ」
「に、200っ?! おいおい、そんなにいたら人間は全滅してるんじゃ……」
「ふん、そうであったらならどんなにいいか! 人間など腐るほどいる!」
魔王がわんさかいるとは、思ったより世紀末な世界なのかも知れないが……そんなところでも人間はたくましく生きているようだ。
「……で、その魔王の眷属様が、なんでまた俺なんか呼び出したんだ?」
色々と回り道をしてしまったが、ここからが本題。こいつら人間の俺に一体何をさせるつもりなのか。
その答えは予想外のものだった。
「それは……わしらの王になってもらうだめじゃ」
「……は?」
思わず声が裏返る。それってつまり、魔王になれと?! 確かにさっき『新しき王』とか言ってたが……
「あ、あれは
「正確には、『いた』じゃの……」
影を帯びるパロの声音。しゅんと下を向くポンコツたち。
その様子から、俺はだいたいの事情を察した。
「アムネス様は殺されたのだ……! 人間が呼び出した異界の者――‘転移者’によって!」
‘転移者’――最初に出会った時から幾度か耳にした言葉だ。それが字面通りの意味だとしたら……どうやらこの世界には俺以外にも召喚されてきた人間がいるらしい。
「ってことは……まさか、魔王として人間と転移者に復讐でもしろってか?」
話の流れ的にそれしか考えられない。だったら当然お断りだ。俺は「人類みな兄弟!」的な博愛精神の持ち主じゃないが、他人を殺し回って喜ぶサイコパスでもない。そんな恐ろしい役目は全力でごめんこうむる。
……けれど、意外にも二人は首を振った。
「復讐か……そうだな、できるものならばそうしたい。主を失い、財産は奪われ、多くの同胞はこの地を追われた。この恨みは決して消えん! だが……」
「アムネス様は心優しき王じゃった。わしらが復讐を遂げたところで、アムネス様は悲しむだけじゃろう。だから、わしらは復讐など望まぬ」
二人の表情からは今なお消えない悲哀が伺い知れる。それでも己の感情より死んだ王の遺志を選ぶということは、それだけ主を慕っていたことの表れなのだろう。
「じゃがの、すべてを失ったわしらにもまだ、守るべきものが一つだけ残っているのじゃ」
そう言って、パロは玉座の後ろの壁へと歩み寄る。そしてとある壁の一画をコンコンと杖で叩いた。――次の瞬間、石造りの壁面が左右に割れて、奥へと続く隠し通路が現れたのだった。
「ほれ、ついて来るのじゃ」
そうしてポンコツたちに続いて通路を往きながら、俺はこの先に待つものに思いを巡らせる。こんな御大層に隠されているのだ、恐らくはデーモンたちが「例のモノ」と呼んでいた何かがあるのだろう。魔王の配下が力づくでも欲しがる代物とくれば、『伝説の剣』とか『秘術の書』とか、そういう類と相場は決まっている。
正直、めっちゃ楽しみだ。流れ的に考えて、その超強力なアイテムを俺が譲り受ける展開に違いない。色々と思惑通りにいかぬ異世界転移だが、ようやくそれっぽくなってきたじゃないか!
……が、俺の予想は180度まるっきり外れていた。
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