2章:針は動く
第4話運転手になってしまった
奴はオレンジ色だった。
岩のようにごつごつした大きな体に、背中にはそれを凌ぐビル3階建て程の大きい翼が生えている。所々紙が破けたように穴が開いている。体がオレンジ色のそいつの登場に俺は恐怖を覚えた。
「どうしたお前たち」
オドオドと見上げる俺達2人に向かって奴はほとんど黒色の眼を向けて喋ってきた。ミカンは耳元で逃げよう、と囁く。
「日本語を喋れるのか」
耳元のミカンの言葉が早口になり、袖を握り出した。
「いつから日本語は日本人だけが喋るものだと思った?」
透き通るような低い声が校舎の頂上に響き渡る。
「なぜここにいる?」
「どうしてだ?」
「答えろ」
喋る度に奴から吐かれる白い息が広がって、足元がキーンと冷やされる。
「おいお前、人に聞くならお前から質問に答えろ。お前はなんだ」
奴は不敵な笑みを浮べた後に、豪快に笑った。
「ワッハッハッ。人間の癖にいい度胸だな」
「当たり前だろう。言えよ」
奴は翼を3度はためかせ、空を見上げる。
「俺達はお前たちが言うドラゴンってやつだ」
「ドラゴン……」
袖を握るミカンの手が強くなる。俺はミカンの腕を強く握り、見下すドラゴンに聞いた。
「ドラゴンは存在しないはずだぞ。魔法族が生まれる前に絶滅させられたはずだ」
「よく知っているな」
ドラゴンはまた翼をバサバサとはためかしている。
「そうだ。一般的には今科学テクノロジーで生きるやつらに根絶やしにされたと言われているな」
日本史あっちこっち改訂版によると“2040年に空からドラゴンが日本に現れたが、発展したテクノロジーを駆使しドラゴンを全滅させた”と記述がある。
ドラゴンはゴーと唸り声をあげながら、次第に宙に浮き始めた。
空に浮くドラゴンが満月の光に照らされ神々しい。
「お前は今高校生だよな」
「だったらどうした」
俺の顔を覗いて何を感じたのか恐る恐るミカンはドラゴンに話しかけた。
「すいません。ドラゴンさんが喋るなということでしたら、私達は何も言いません」
冷たい顔のドラゴンはミカンに一瞬目をやり、俺に再び話し始めた。
「お前はドラゴンのことを知りたいだろう。みんな同じだ」
「みんな……?」
ドラゴンは学校中に響き渡るような声の大きさでグワ―と唸った。
「来い。お前は来るべきだ」
「来い?どこへ」
「ドラゴンの世界だよ」
ドラゴンの言葉を聞いたミカンは頭を振って、止めるように言うのだが納得できなかった。
「他にもドラゴンがいるのか?」
ドラゴンは無言で、大きな黒目で見つめるだけだ。
「変身した魔法使いかもしれないよ。とにかく怪しい」
ミカンが額がくっつきそうな距離まで顔を近づけ説得してくる。彼女の眼は赤い。
きっとこれが俺の探していたモノだ
ミカンはドラゴンの証拠なんてないとか、滅亡したドラゴンが目の前に現れるなんて都合がいいと言って、どうにか引き留めようとしてくる。
ミカンごめん
目が線になるほどの笑顔で俺はミカンの肩を持った。そして目を合わせた。
カイエルと呟くと俺は空を浮き、ドラゴンの背中に降りた。きっと一生するであろう後悔を背負って。
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