第3話アップな曲調だと気分が上がる
夜の空にも雲はあった。
それどころかいつも以上に雲たちがいて、それぞれが違う形をしている。まるで追いかけっこをするようにゆっくりと右から左へと流れている。のんびりで羨ましい。それが校舎てっぺんからみる空の印象だった。
「楽しい?ソラ見るのって」
「うーん……まあまあ」
「なにそれ」
隣で空を見上げるミカンはこっちを向いた。
可愛い。
横からみると可愛いかもしれない。俺をまっすぐ見つめる大きな瞳がどこか魅力的であるかもしれない。一瞬ドキッとしたのはその誤認識のせいだろう。きっとこれは夜の校舎で隣で寝ているからだろう。そんな勘違いは所詮そんなものだ。真実に気付くと、俺はまた空を見上げた。
「いつも空を見ているよね。なんで?」
「……俺達って学校で勉強しているじゃん。魔法」
「そうだね。それが?」
「最近オーラがすごく見えるんだよ」
俺は最近自分に起こっている症状を話した。魔法使い1万人に1人だけに存在する"オーラが見える"能力がこれまで以上に悪化していることを。
「俺たまにさ、なんか悶々とするときあるんだよ?」
「うん」
「そうすると、なんかさ目の前が一色になるんだよ。米も家の壁も何もかも」
「うん。どんな風に?」
「全部がピンク。真っピンク」
「……うん」
「もーう、モンモンだからね」
笑顔で俺はそう言うと、眉をひそめるミカンから逃げた。
ごめん、本当のことは伝えられないよ。
心配して損した。そんな風に怒った彼女から距離を取ろうと精一杯走った。走って走って走った。彼女には空を見る理由を言えない。
「学校がつまらないからだよ」十分に距離をとって遠くから大声で言うとふーんと不服そうな声が返って来る。
「そういえばさ、選択授業何とる?」
「なんの?」
まだ眉がくっつきそうな顔をしている。
「水曜3限のやつだよ」
「あーゼミね。それって真剣に考えないと将来の進路に影響するって先輩言ってたよ」
「え、先輩とかどうやって繋がりができるの?」
全国の日本にある高等学校では一律、月曜日と水曜日と土曜日に4限授業の参加が最低限の義務になっている。しかし魔法科高等学校では、水曜日と土曜日に3限授業の参加が義務となっている。
「せっかくオーラが見える体質なんだから魔法科大学行けるようにしなよ。今時魔法科卒業じゃないとまともに働けないよ」
ミカンの顔は再び心配そうにまっすぐと俺の目を見つめている。
「じゃあ俺は歴史学のゼミ入るよ」
「ならそこで人との繋がり作っていいコネつくりなよ。非魔法科の人が就く仕事なんてたいして面白くも儲かりもしないんだから」
「はいはいわかったよ。非魔法科って久しぶりに聞いたわ」
笑いながら、帰ることを告げようとしたその時だった。
やつは空からやって来た。
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