第十六話 恩賞をもらいました!

 僕たちは、なんとか殿(しんがり)の勤めを果たすことができた。


 砦は奪われてしまったけど、こちらの被害は最小限。マーロック軍の追撃もない。シュルーナ様は無事逃げられたようだ。一足先に本城ベルシュタットに戻られているだろう。


 僕とリオンさんは、夕方にはオークの縄張りに到着。彼らは、金次第で力を貸す土着の民族。シュルーナ様が金を渡し、僕たちに協力するよう命じてくれていた。力を借りることはなかったが、食事でもてなしてくれた。


 そして翌々日。僕たちは、本拠地のベルシュタット城へと到着する。森の中に聳える巨大な城だ。もとは人間が使っていたらしい。


 城郭都市で、巨大な円を描くように張り巡らされた城壁の内側には、数多の家屋が広がっている。魔物の中には、人間の真似事をしたい者もいて、がんばって働いてお金を貯め、家を購入して住んでいたりもする。


 僕たちが帰還すると、城門から城にかけて、大勢の魔物が歓声を上げて迎えてくれた。


『俺の背中にいるのもみっともないだろ』と、リオンさんが馬を用意してくれた。リオン様に続いて城門を潜り、僕は歓迎の雄叫びを全身に受けたのだ。


 城へ入ると、チャコさんが部屋を用意してくれていた。今日はしっかり休んでいいというので、僕はベッドにダイブ。そのまま泥のように眠ってしまう――。



 翌日。

 シュルーナ様は、家臣たちを集めた。


 謁見の間の奥にはシュルーナ様が鎮座されている。向かい合わせるように並んでいる家臣たち。


 リオンさん、シークイズ様。チャコさん。あと、知らない女の人がひとりいた。そして恐れ多くも、その並びに僕がいる。大勢の魔物も、観衆の如く脇に集まっていた。


「皆の者、ご苦労であった。いやあ、まさかマーロックが奇襲をかけてくるとは思わなかったのじゃ」


「姫様がご無事でなにより。砦を失ったのは痛いけど、判断はお見事。最善の結果だったんじゃないかな」


 ミゲルの隣に並ぶ、知らない女性が言った。


「うむ。マリルクも、御苦労であった」


 ――マリルク様というのか。


 ゆったりしたローブを纏う、長い髪の女性。月と太陽の形をしたイヤリングが、それぞれ左右の耳できらりと輝いている。眼鏡をかけていて、物腰も落ち着いていて、とても綺麗な御顔をしていた。


「僕はたいしたことをしてないよ。適当に戦の準備をしていただけだしね」


 シュルーナ様がいない間、マリルク様が城の内政を担っていたらしい。


「――さて、皆に集まってもらったのは他でもない。特別恩賞を与えねばならん者がおるのでな。表彰しておきたい」


 シュルーナ様がパチンと指を鳴らす。すると、二足歩行の鰐たちが、宝箱をふたつ運んできた。それを、玉座の横へと置く。


 特別恩賞とは、給料以外に与えられる褒美のこと。帰城中にリオンさんが教えてくれた。大勢の前で授与することによって、他の者も、より一層努力しようという気分になる。


 殿を務めたリオンさんは、間違いなくもらえるだろうと言っていた。まさに、この授与式はリオンさんのために開かれたようなものなのだ。


「リオン・ファーレ。前に出るのじゃ」


「おう」と、リオンさんが姫様の前へ。ぶっきらぼうな態度だが、ちゃんと跪いていた。


「殿の任、まこと見事であった。おぬしがおらねば、大きな被害を被っていたであろう。イシュヘルトを討ち取ったのも天晴れなのじゃ。――よって、金1000万ルクと、名槍ガルバンディを与える」


「金はともかく、槍はありがてぇな。その時の戦で、なくしちまったんだ」


 姫様直々に手渡される槍。窓から差し込む陽光を受けた先端が、ぎらりと輝いていた。


「そのまま動くでないぞ」


 シュルーナ様が、指先から閃光を撃ち放つ。すると、光がガルバンディの刃を貫いて、壁を焦がした。しかし、名槍ガルバンディは、みるみるうちに修復されていく。


「自己修復……? なるほど、こいつは俺にピッタリだ。気に入ったぜ」


 お金に関して、リオン様はほとんど興味がないらしい。というか、筆頭家臣というだけで給料は高いし、こうして戦があれば大活躍なので、溢れんばかりに増えていく。


 ゆえに、手に入れた金は、部下たちの装備を整えたり、馬の購入に充てたり、美味い食料を買い与えたりとバンバン使うそうだ。それは軍にとってもいいことなので、シュルーナ様としても恩賞を与えやすい。凄い好循環だ。


「――さて、もうひとり、恩賞を授けねばならぬ奴がおるのう。――ミゲルシオン・ユーロアート」


 ミゲルシオン……誰だろう? 僕の知らない人だ。返事がない。ここにはいないのかな? 本人のいないところで、表彰するのだろうか。きっと忙しい御方なのだろう。


 ――ん? みげるしおん? 僕と同じ名前じゃないか? あれ? え?


「これ、ミゲル。返事をせぬか」


 シュルーナ様が、おたまを投げる。僕の頭にコンッとあたる。痛い。


「――え? えええッ? ぼ、僕ですか?」


「おぬし以外に誰がおる。リオンと共に、殿を務めたであろう? 活躍はしかと聞いておるのじゃ。ほれ、前に出よ」


「ええあぁぁぁわわわわわッ?」


 戸惑っているうちに、リオンさんが背中を押してくる。その勢いで、僕は前に出てしまう。とりあえず、姫様の御前で勢いよく跪いた。


「は、ははーっ!」


「おぬしの活躍で、我が軍の精鋭を不必要に失わず済んだのじゃ。金1000万ルクを与える。そして今後は、おぬしを将のひとりとして数えることにする。しっかり励めい」


「僕が、将……?」


「物見や雑用係ではもったいない。おぬしには戦場が似合おうておる。その身体に流れる気高きシャーマンウルフの血を滾らせるがよい」


「ああああ、ありがたき幸せ!」


 1000万ルク……。肉を挟んだパンでも300ルクぐらいだ。途方もない額である。これだけで、何年も食べていける。城下に家だって買えてしまう……。うん、なんだか、凄いことになってきたぞ。


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