第十話 嘘八百。虚構八千。見える未来は末広がり?

「……ぅ……倒れてる場合じゃ……ないや……」


 リオン様は、遠くへと殴り飛ばされてしまった。隊は、リオン様という精神的支柱を失い浮き足立っているようだ。


 僕は、よろよろと立ち上がる。派手に血は出ているが、幸い致命傷ではなかった。


 ――僕はなんのため、ここにいるのだろうか。シュルーナ様に、殿を任せられたのではないか。足手纏いになるためだけに参戦したのではない。ならば、僕は、僕にできることをしなければならないのではないか!


「みなさん……! リオン様は必ず戻ってきます! ここは踏ん張りどころです!」


 士気を持ち直すため、僕は全力で叫んだ。横腹の傷がズキズキと痛む。けど、誰も僕の言葉に耳を傾けてはくれなかった。


「――わっ!」


 猿の魔物が襲いかかってきた。それを三メートルはあろうドラゴンゾンビの戦士が助けてくれる。猿の魔物を斧で切り飛ばす。


「えっと、ジュラフェリスさん……でしたっけ?」


 たしか、リオンさんが、そう呼んでいたような気がする。


「グル」


 言葉は通じるらしい。彼(彼女?)は、リオン様から与えられた『ミゲルを守れ』という命令を忠実に遂行してくれているみたいだ。


「あ、あの……このままでは各個撃破されてしまいます。一度陣形を立て直すべきだと思います。みなさんの不死という能力は、密集してこそ真価を発揮します」


 僕は戦に関してはからっきしだ。けど、シャーマンウルフの家族と過ごしてきて『集団で戦う』ということを知っている。現状ではジリ貧。このままでは全滅するのも時間の問題だ。


「グル?」


 僕の言い方が難しかったのかな? シンプルに伝えれば、わかってくれるのではないか。ならば、彼らやリオン様に対し失礼な発言かもしれないけど――。


「ぼ、僕の言うとおりに動いてくれたら勝てます!」


「グルル!」


 怒っているらしい。適当なことを言っているように思われたのだろうか。


「う、嘘です! け、けど、リオン様が戻ってくるまでの時間は稼げます」


「グルォ?」


 なるべく単文で伝える。それなら、魔物でも理解してくれるはず。


「リオン様に万一のことあらば、僕が指揮を執るよう言われているんです!」


 嘘だけど、このままでは全滅してしまう。咎めは後で受けよう。


「グルァァアァ!」


「なぜ、僕を守るように言われたのかを考えてください! このような状況を想定して、僕は連れてこられたのです! リオン様も承知のことです!」


「グ、ルル……」


 おとなしくなった。迷っているのか。それとも、理解してくれたのだろうか。


「リオン様や、みんなのためなんです。僕を信じてください」


 ジュラフェリスさんは、周囲をキョロキョロと見回した。少し、思案するような表情を見せる。そして『やれ』と言わんばかりに顎をしゃくった。


「あ……ジュラフェリスさん……?」


 大きな顎を振り下ろして頷くジュラフェリスさん。納得はしていないけど、承諾はしてくれたようだ。


「あ、ありがとうございます!」


 僕は早速指揮を執る。まず、僕が指揮官だと、みんなに認めさせなければならない。


「ジュラフェリスさん! 思いっきり吠えてください!」


「グルルルルアァアァアァァァァァァァァッ!」


 ビリビリと森が震えて木の葉が舞い散った。そして、全員の視線が一斉に集まった。


「ジュラフェリスさん! そっちの敵を倒してください。次は、背後の敵を。――そして、僕を背中に乗せてください!」


 幹部であろうジュラフェリスさんが、僕の指示に従っているという『行為』を、仲間たちに見せる。そうすることで、立場を理解してもらう。


「ここからは、リオン様のいいつけに従い、僕が指揮を執ります! みなさん、僕の言うことを聞いてください!」


 大きな身体を伏せて、背中に乗せてくれるジュラフェリスさん。背びれが、ちょうど椅子代わりになった。ちんちんが痛い。


「マジックグール隊は僕の近くに! デュラハン隊はそれらを囲むように守ってください!」


 僕は、リオン様の戦を見ていた。兵隊たちの特性を活かし、どのように起用しているのかも――。


 ――勝手なことをしたお仕置きは、あとで受ける。それでいい――。僕が、絶対に守ってみせる。


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