第14話 友達から恋人へ

 1週間前の出来事が何度も脳裏に過ぎった。わたしはあれから何度か図書館に通ってひよりの姿を探した。しかし何度、探してもひよりの姿は見つけられなかった。それがどうしようもなく悔しくて、歯痒かった。

「ゆり~、ゼミ室いくよ~。」 

遠くから茜の声がしてハッと我に返る。わたしは茜を追いゼミ室へと向かった。


 1週間前の出来事が忘れられない。あれからベッドを使うたびにゆり先輩のことを思い出して眠れなくなる。私はそれが妙に気恥ずかしくてこの気持ちに見て見ぬふりをし続けた。あの人にとって私は友達。私にとってあの人はとても可愛らしくて大好きな人。思い違いがどうしようもなくもどかしい。その気持ちを隠すように私は読書にのめり込んだ。


 食堂で茜たちと雑談しているとひよりが食堂に入ってくるのが見えた。声をかけようにも今は茜たちが一緒だし席を離れるわけには行かない。チラッとひよりの方を見るとひよりもこちらを見ていた。一瞬だけ目が合ったけれどなぜかすぐに逸らしてしまう。他の友達にはこんなことにならないのに、ひよりだけ特別なのはなぜ?


 長い授業が終わって、帰りのバスを待っている時ひよりの姿が見えた。どうやら部室棟の方へ行こうとしているらしかった。わたしは少し迷ったけれど意を決してひよりの後ろを追いかけることにした。

「ゆり先輩はいますか?」

文芸部の部室の前で茜と対峙するひよりがいた。

「あんた、勧誘の時の武士ちゃんじゃん。まだうちに何か用?」

茜がひよりをからかうと茜の取り巻きも便乗してからかい始める。ひよりは顔をしかめながら大きなため息をついた。わたしは一滴の勇気を振り絞って声を出す。

「作野さん!どうしたの?」

その場にいた全員がわたしの方を向く。視線の雨に押しつぶされそうになっているとひよりが笑顔でこちらに駆け寄ってきた。

「先輩、探してましたよ。」

ひよりはわたしの手を取ってその場から逃げるように離れていった。

 ひよりはしばらく走ってからわたしの手を離して大きく息をついた。わたしも大きく深呼吸をして息を整えた。

「すみません。勝手な真似をして。もう一度、ゆっくりお話がしたかったんです。」

ひよりは真っ直ぐわたしの方を見てそう言った。

「1週間前はすみませんでした。」

思わぬ言葉にわたしは慌ててひよりの方に視線を向ける。ひよりの顔を見ると、どこか寂しそうな顔をしていた。

「謝らないで。迷惑をかけたのはわたしの方なのに。」

わたしは消え入るような声でそう話すと、ひよりはわたしの方を見つめ直した。

「先輩、私、先輩のことが好きなんです。この1週間ずっと先輩のことばかり考えていてベッドを見る度にあの日の夜を思い出している自分がいるんです。」

ひよりの唇が微かに震えていた。そんな彼女を見ていたらどうしようもなく愛おしくなり、『わたしも』と言いかけた時だった。

「は…。嘘でしょ。」

後ろに立っていたのは茜だった。

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ゆりとひよりのまったり百合日和 青崎 悠詩 @lily_drop

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