第13話 またねと言った朝-ひより-

 しばらくして、再び目が覚めると陽はすっかり昇っていて時計は10時を指していた。ベッドに目を向けると気持ちよさそうに眠っているゆり先輩がいる。

「さすがに夢じゃないか。」

昨日の出来事は私の平凡な毎日には刺激的すぎてあまりにも現実感がない。ゆり先輩の方をぼーっと見ているとちょうど寝返りを打ち閉じた目と目が合った。私は不覚にも少しだけドキッとしてしまった。

 私は生まれつき同性が恋愛の対象で今まで自分とは正反対の小柄な人ばかりに恋をしてきた。しかしその恋は私から外に出ることはない。一般的に同性は友達として接することがほとんどで、その場のノリで好きだなんて言うことはあっても誰も本気にはしない。だから恋には落ちないようにしているのに、どうにもこの人はダメだ。どんな人かもよく知らないけど傍にいればいるほど恋に落ちていく未来が見える。なんとなく、心の中でもう会いたくないなと思っている自分がいた。


 しばらくするとゆり先輩は目を覚まし、申し訳なさそうに私に謝った。ひとつひとつの仕草が目にとまる。他愛もない会話をしていると、ゆり先輩がふと「綺麗」と言った気がする。何に対して言ったのかは分からない。それでも無意識的に身体が動いていた。キスをしようとしていた。私はギリギリのところで顔をずらし悪戯をしたという体を装った。

 ごまかすように話を切り上げ、お粥を作った。ゆり先輩は小さな口で熱いお粥をせっせと食べている。それが本当に愛おしくてあまり見ないようにした。すると先輩は私の名前を尋ねた。

「作野ひよりです。ゆり先輩、これからも仲良くしてくださいね。」

名前だけ教えるつもりだった。これからもなんて言うつもりもなかったのに無意識的に言っていた。ゆり先輩はにこにこと笑いながら「よろしくね」と言った。

 私の顔がじんわりと熱くなる。しばらく雑談してからゆり先輩は帰って行った。帰り際にゆり先輩は「またね」と笑顔で言った。私も「またね」と返した。

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