第12話 初めましての夜-ひより-

 大学に来てからしばらく経ったある日のこと、日付が変わったぐらいにコンビニから古めかしいアパートに帰ると階段で気持ちよさそうに眠っている女性がいた。どこかで見かけたような気がするけどよく覚えてはいない。

 私は少し離れたところから「あの~」と声をかけてみたものの返事は寝息だけ。今度は近くで声をかけると少しだけ目を開けてから「吐きそう」と言った。私は慌ててコンビニで買った物を全て取り出し口元に袋をあてた。手に持っている袋ごしに生暖かい感触が伝わってくる。「気持ち悪い」と思いながらもこの人をなんとかしなくてはという謎の母性が働き、最後まで面倒をみることにした。階段の下に落ちた鞄からは学生証が飛び出していた。

 女性の腕を自分の肩に回しゆっくりと持ち上げる。女性はおぼつかない足取りではあったもののなんとか自力で階段を上り私の部屋に入ってくれた。女性をトイレに入れてからビニール袋にティッシュを詰め込み生ゴミと一緒に捨てる。女性は私のベッドですやすやと眠っていた。私はこれからどうしたものかと考えつつベッドを背もたれに床に座った。そのまま眠りにつこうかとも思ったが妙に頭がさえている。私は机の上に置いてある本を手に取り奇妙な夜を過ごした。


 本を読み切った頃、時計は3時を指していた。女性は相変わらずすやすやと眠っている。階段下で回収した学生証によると同じ大学の4年生で千藤ちふじゆりという名前らしい。

「ゆり先輩か……。」

ベッドで寝ているゆり先輩の寝顔がどうしようもなく可愛くて愛おしく思える。その姿を見ていると危うく恋に落ちそうになる。

「ずるいよなぁ。」

私はさっきよりずっと小さな声でそう呟き、ベッドを背もたれにして眠りについた。

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