第9話 近藤さん -ひより-

 しばらくして、家のチャイムが鳴った。モニターには近藤が映っている。

「すみません、急に。こうでもしないと会ってもらえない気がして。」

近藤は靴を脱ぎながらそう言った。彼は私の担当編集で多くの作品を一緒に生み出してきた。

「いや、さすがに急すぎですよ。」

「はは。すみません。」と近藤は笑った。


 リビングのソファーに座ってもらい、私はコーヒーの準備をした。

「近藤さん、わざわざ家に来るなんて何かありましたか?」

私はすぐに要件を訪ねる。

「うーん。急に作野先生と話したくなってしまいまして。」

近藤は慎重に言葉を選びながら話す。私たちの噂にあえて触れないようにしているみたいで気に触る。

「今、話題になっている噂のことですか?」

近藤は少し、困ったように話し始める。

「まぁ、そうですね。正直に言うと、編集部にも何件も問い合わせが来てるんです。編集長から本人のコメントを載せたいから聞いてこいと言われてしまって。」

近藤が苛立っているのが、ひしひしと伝わってくる。私も本人のコメントってなんなんだよ。私は恋愛を禁止されたアイドルでもなんでもない。大切な人がいることの何がおかしいんだろう。と自問を繰り返す。

「私たちってそんなに変ですかね。ただ女同士ってだけなのに。」

「そんなことないです!!!」

近藤が初めて声を荒げた。近藤は淡々と話し続ける。

「変じゃないですよ。だって、先生たち自身が幸せそうにしているのに変だなんて周りが言っていいことじゃない。性別なんて関係ない。みんな物珍しさだけに飛びついて先生たちのことなんて一つも考えていない。僕はそれが許せないんです。」

いつも穏やかな近藤が感情を露わにしていく。その姿が新鮮で心強く見える。私は黙って彼の言葉に耳を傾けた。

 しばらくして沈黙が訪れる。近藤は言いたいことを全て言い切ったようでスッキリとした顔でコーヒーを飲み干した。

「近藤さん、ありがとうございます。私が想像してたよりずっと私たちのことを気にしてくれて、凄く驚いたし嬉しかったです。」

近藤は安堵したようにこちらを見る。

「コメントの件ですが、来週発売の雑誌に私のエッセイを載せる事ってできませんか。今の思いや、読者に伝えたいことを載せてほしいんです。」

「いいんですか?」

近藤は驚いたようにこちらを見て言った。

「エッセイで私は伝えたいことを書いて、私の中でこの噂とケリをつけたいんです。」

「分かりました。なんとなくでもいいので文字数が分かり次第教えてください。枠は僕の方で確保しておきます。」

そう言って近藤は、帰って行った。

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