第7話 うわさ -ゆり-

「先生ってレズなんだ。」

 河井さんの何気ない発言が心を深くえぐりとっていく。目の前が真っ黒になり動けない。言葉が出ない。

『え、ゆりってレズ?ふーん……変なの。』

遠くで誰かの声がする。この声、茜だ。記憶の奥に眠っていたトラウマが徐々に前に前に出てきて頭の中を占領していく。またこうなるんだ。わたしはその場で座り込んでしまった。

「それって何か問題なの?」

真っ黒な世界から一筋の光が差し込む。ひよりだ。

「女の人が女の人を好きになることってそんな変かな?普通だと思うけど。」

そう言ってわたしに手を差し伸べてくれるひより。なんでこんなに強いんだろう。

 ひよりに支えられ、少し落ち着きを取り戻したわたしは周囲の視線を痛いほど感じた。例の目撃情報のおかげでわたしたちは注目の的。あちこちからヒソヒソと話す声が聞こえてくる。中にはカメラをこちらに向けている人もいるようだ。

「ごめんね、先生。レズの人に初めて会ったから驚いただけ。またね~。」

河井さんはそう言ってその場を去って行った。彼女に悪気はない。あの時に向けられた視線とは全く違う。それなのに……どうしてこんなに辛いの……。

 

 ひよりはまるで何事も無かった様にわたしの手を引き出口へ向かう。ひよりはいつだって変わらない。周りから何を言われても、どんな視線を向けられても気にせず自分を貫いている。そういうところが本当にかっこよくて大好きで憧れる。

 周りの視線を感じながらショッピングモールを出て帰路につく。そのときもずっとひよりは手を握ってくれている。特に会話をする訳でもなくただ手をつないでいるだけ。それがとても安心できて癒やされる。

 家に着いてもひよりはわたしの手を離さず隣に座っていた。うたた寝をしたり、テレビを見たりと、今日のことが嘘のように平和な時間。

「ひより、今日はごめんね。締め切り開けで疲れてるのに苦手な人混みに付き合ってもらって、おまけに大変な騒ぎも起こしちゃって。本当にごめんなさい。」

ひよりはこちらを見てにっこりと笑いながらわたしの頭を撫でてくれた。

「なんでゆりが謝ってるの?ゆりは何もしてないよ。私も買い物は楽しかったし、ゆりのお洒落な姿見られて本当に嬉しかったよ。」

その言葉で我慢していた涙が一気に溢れてくる。わたしはひよりに抱きつき年甲斐も無く泣きじゃくった。

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