第5話 二人が二人になった日。

―1年前

この日、ひよりとゆりはお互いの休みが重なり二人きりの休日を自宅で

過ごしていた。


「暇なので昔話しまーす。」

退屈が苦手なゆりは本ばかり読んでいるひよりに構って欲しくて興味がありそうな話を一人言のようにぶつぶつと呟いていた。

「あれは、卒業式のことかな。あ、ひよりに告白された日のことだよ?」

ゆりの何気ない一言がひよりの集中力を切った。

実を言うと告白したのはゆりの方なのだが、構ってほしさに嘘を吐いたのだ。

「ちょっと待って……卒業式に告白してきたのはゆりの方でしょ?」

ひよりは真剣な顔つきでゆりの顔にぐっと近づく。

ゆりは急に顔を近づけてきたひよりにときめきを隠せない。

「えぇ、そ、そうだっけ??お、覚えてないなぁ?」

ゆりは照れ隠しで曖昧な答えを返してしまう。

「覚えてない?そ……うなんだ……。私はゆりに告白されて本当に幸せだったのになぁ。」

ひよりは照れ隠しだとは思わず、ゆりの言葉を素直に受け止めてしまった。

「いや、ちが……」

「ごめん、ちょっと一人になりたいな。」

ゆりの思いは届くことなく、勘違いをした状態で二人の間に亀裂を作ってしまった。


ひよりは部屋で考えた。本気なのは自分だけで、ゆりにとって自分は遊び相手のような感覚なのだろうか。

「はぁ。馬鹿みたい。そんなことにも気付けないなんて。」

あらぬことを考えてる内に自然と涙がこぼれてくる。その涙が自分の弱さを表しているようでさらに辛くなる。

「本当に大好きなのになぁ。」

同時にゆりへの愛がどんどんと大きくなっていく。


 一方、ゆりはリビングで猛省していた。何気なく口にした冗談が時に人を深く傷つけてしまう。

自分の無神経さが嫌になった。

「ごめんなさい。」

ゆりはひとりぼっちのリビングで誰にも届かない言葉を口にした。


  しばらくすると、ひよりは部屋から出てきた。もう何も気にしていない風を装っているが愛想笑いの奥には落胆の影がしっかりと居座っている。

「ひより、あの……」

「ゆり、もういいよ。」

ゆりは少しでも早く誤解を解きたかった。

ひよりはただ、辛かった。現実から逃げたいと思っていた。

「作野さん。わたしとつきあってほしい……大好きです。」

聞き馴染みのあるセリフ。ゆりの卒業式、私の恋が初めて実った日。震えた声。目にうっすらと浮かぶ涙。全て、あの時と変わらない。やっぱり大好きだ。

「もちろんですよ、先輩……私も大好きです。」

あの時と同じ返事。緊張が一気に緩んでいく魔法の言葉。初めてわたしの恋が実った。世界一、幸せそうな嬉し泣き。必死で我慢していた涙が自然と溢れてくる。


 「ごめんなさい……本当にごめんなさい。」

ゆりは今伝えられる最大限の愛をこめてひよりを抱きしめる。ひよりはそれに応えるためにもっと強く抱きしめる。

「先輩、次はナシですからね。」

いつの間にか、涙は笑顔に変わり幸せになった。


「ゆり……好きだよ。」

ただ一言がこんなにも愛おしい。


 朝4時。ひよりはいつものように目を覚ます。横では幸せそうなゆりが眠っている。ひよりは手のひらを取り優しくキスをする。

「世界一綺麗なお姫様。これからも私のそばにいてください。」

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