十四話 白い魔石–magic stone−(マジックストーン)

「んー…これは…ない。ないな。却下だ。」


「綺麗だよ。駄目なの?」


「な、なんですとっ!この星屑の様に美しく煌めく羽衣!深いスリットから露わになる細っそりとした妖艶な白い太腿!そして下乳を、くびれを、ヒップを大胆に!そう大胆に!チラリズムの極地を見出した極上のドレス!正に戦場に降り立つ天女っっ!これのどこに不満があるというのですか!?」


俺達が何をしているのかと言うと、簡単に言えばウルを着せ替え人形の様にして遊んでいる…


こんなつもりでは無かったんだがワンダが横から乗り気で服や装備を持ち込んでからいつの間にかこうなってしまった。


「何というか…嬢だな。この世界ではこんな格好で旅をする奴もいるのか?」


「俺も流石にどうかと思うぜ。確かに能力的には身丈にゃ合っちゃいるが派手な姫様でもそんな格好はしねぇだろ。」


ウルが今着ているのは何というか2枚の布を身体に巻き付けただけの服で胸元からヘソ下の際どい辺りまで紐が交差している要所要所がかなり際どいドレスだ。


左の脇下から背中回る布と右肩に伸びる布で結ばれた部分を解けば簡単に服が脱げてしまうだろう。


「なんか…背中がスースーする。動きやすい…よ?」


その場で宙に浮いて動きやすい事をアピールしてるのか?今にも布から胸が溢れ出しそうになっている。


「それだと空を飛んでる最中に何処かに飛んでいってしまうぞ。俺は空飛ぶ裸族と旅をしたくは無い。」


「…じゃあ却下。」


「ノォォォォォッッッ!!!」


手を上げて膝をつくな。何処かの戦争のハリウッド映画か。しかし正直にいうとセンスは…とてもいいと思う。


「もっと露出度が低くて実用性のある物にしろよ。俺達は興行する訳じゃないんだぞ。」


「嬢ちゃんの武器はクロウナックルだろ。丈夫で動きやすい魔絹もいいが近接なら帷子やライトアーマーの方がいいぞ。靡かねえし受けもし易いしな。嬢ちゃんなら…コイツなんかどうだ?」


この武具屋の店主フィンが持ってきたのは身体にピッタリと張り付く様な細いラインの白銀と青の鎧を持ち上げている。

腰回りの地につきそうな程の鉄の草摺が物々しい鎧のドレスと言った感じか。


「コイツはかなり柔軟性が高けぇ金属を可動部位の繋ぎに細かく仕込んだ変わり種だ。見てみろ。腹の部分もこんだけまがるんだよ。耐久性と衝撃拡散率もかなりの代物だぜ。」


繋ぎの部分が伸びてストローみたいに曲がっているな。


「嬢ちゃん、空も飛べるんだって?ならコイツの腰回りを取っ払ってこっちに並んでるソードブーツでも履きゃ邪魔にもなんねぇし足も使えるから手数も増やせるぜ。」


因みにソードブーツとはブーツが一本の劔の様になった武器で膝、踵、足の甲に鋭利な刃が仕込まれた見た目も中身もかなり物騒な代物だ。


ソートから借り受けた手甲、クロウナックルと一緒に装備すれば全身が武器に覆われた超攻撃特化型の装備になるだろう。


「なるほど。其れは良いかもな。着心地はどうだ?」


「ちょっと動きづらい…これが邪魔。飛んでたら周りに当たりそう。」


南瓜の様に膨らんだ草摺をバンバン叩いている。まだ買ってないんだからそういう事をするな。


「調整に半日くれりゃもっと動きやすくできるぜ。何なら肩当も草摺も取っ払ってくびれ周りももちっと弄るか?其れでも動きやすくしたいなら無難に胸当てだな。」


胸当てもいいがさっき親父さんが言った通りウルは空を飛べるからな。戦闘になった時はかなりアクロバティックに動いていたから胸周りだけじゃなく背中まで覆っているライトアーマーの方が安全なんじゃないかと俺も思う。


「俺ならコイツの方がお勧めだがどうする?」


「ウルはどっちがいい?」


両手を横に広げて胸当てを弟子に着けて貰っている。その仕草は初めて着付けをして貰っている七五三の子供の様だ。


「んー…これも脇がゴワゴワする…分かんないから決めて。」


丸投げですか。


まぁ親父さんも俺も意見が一致しているからライトアーマー一択だな。


「じゃあこっちのライトアーマーにしますよ。あと下着とか肌着とか、普通の服もありますか?」


「それはフアロに頼みな。おい、ちょっと見繕ってやれ。」


「アイアイサー!」


ウルと弟子のフアロが服が並ぶ一角に移動していく。ワンダも付いて行っている様だがまた際どい服を選ぶんじゃないだろうな。


「フアロ!ワンダが変な服を選ばない様見といてくれ。」


「アイアイアイサー!」


さて次は俺の服だがどうするか。


「にいちゃんには鎧の類は必要ねぇだろうな。魔絹や魔獣の皮なんかで繕った再生能力のあるやつが良さそうだな。」


「その心は?」


「にいちゃん自己回復系のスキルもってんだろ。しかもその小せぇ身形で刀を扱うんなら鎧じゃ小回りが利かねぇし無駄な力が入っちまうから持ち味が生きねぇよ。防具を付けるにしても手甲に脛当て程度に抑えといた方が良いぜ。」


小さいは余計だ。というか自己回復系のスキル?なんだそりゃ?いや…思い当たる節はある。


「俺はその自己回復系のスキルというものを持ってるんですか?」


「なんだ無自覚か。あんちゃんにゃそういうスキルを持つ奴等と同じ様な細胞の軋みみてぇな音が聞こえっからな。いろんなもんがあるからわからねぇが同じ系統のスキルか能力は間違いなく持ってる筈だぜ。」


崖に手を突き刺した時以来、考えても分からないという理由で棚上げしていたので忘れかけていたが、本当に俺にそんな力があるのか?この世界に来た際の影響なのかは分からないがそんな力があると解れば後で検証する必要があるな。


「コイツなんかどうよ。チェーニキマイラの蛇革で仕立てたローブと服一式。」


うわ黒っ。何というか中二病が好きそうな全身黒服だ。いや嫌いじゃないがこれを着るのは…


「見た目がな…防御力的にはどのくらいのものですか?」


「ウチにある中の衣服系じゃ一番の品だな。値段的にもな。そもそも再生能力のある品自体少ねえんだ。後はヘルモスの魔絹か単純に防御力の高えだけのプテラ・サブラの鱗を使った帷子くらいか。何なら鎧にしとくか?」


「鎧も着慣れないという訳ではないですが…」


「あいにくウチは鍛冶屋で武具屋がメインだからな。衣服系の品揃えはそんなにねぇんだ。まぁウチにはフアロが居るから布か皮さえ持ってきてくれりゃそれで服も仕立てられるんだがな。」


布、皮か…アフム・バグを撃退はしたが流石に皮を剥いだりなんかはしていないしな。そういえばソートの家には立派な動物の皮が無造作に積まれていた。


しかし今から戻って譲って貰うわけにもいかんしな。


いや…もっと良い物があるじゃないか。


「例えばこの布というか衣で服を仕立てる事は出来ないですか?」


「なんだぁ?見た事もねぇ布だな。いや、こいつぁ皮か?龍皮や蛟に似ているが鱗が小さすぎる。だが硬度はかなりある様だし何より軽ぃな。下手すりゃ其処らの鎧より頑丈なもんが出来上がるぞっ!」


「作れるならこれを使って欲しいですね。」


「んー…できなくはねぇ、と思う。だがちと時間が必要だな。」


「どのくらい?」


「早けりゃ一週間後、長く見積もっても一月はかかりそうだな。俺の勘がこいつぁかなり癖があるっつってる。それに俺にゃ服を仕立てられねぇ。フアロに指示出しながらの作業になっから、そんぐらいは見といて欲しいな。後は最悪お手上げって場合もあるからあんまり期待はすんな。」


「それならそれでいいですよ。ただ急げるなら急いで貰えると助かります。」


衣はウルがもう一枚持ってるしな。空を飛ぶ事が必要な場合は魔法の絨毯にして飛べば問題はないだろう。


一月かかるならその間にケイオスやルルイエを先に調べればいいだけだ。


結局俺の方はワンダセレクトの何の防御力もない普通の服に手甲と膝当てを着けた格好で話がついた。どちらにしてもウルのライトアーマーが非常に高価だった為、服の仕立ても併せて手持ちの7割がその代金に消えた。


其れでも数ヶ月生活するには困らない額が残っているわけだがこの先何が起こるか全く見当がつかない。魔鉱が捌かれるまで節約はしておいた方が良いだろう。


「取り敢えず一週間後に此処に寄ってくれ。出来てりゃそん時に渡すからよ。」


「分かりました。楽しみにしてます。」


新たな服に着替えて武具屋を後にした後、再び街道に戻り宿を探していた。あの武具屋には鏡が無かったので自分の身形がまともなものかはよく分からない。


「いっぱい着替えた…眠い…」


ウルが目を擦り始めている。なんだかんだとしていたらすっかり夜も更けてしまっていた。


「すいません…ウルさんの衣装に夢中になり過ぎてかなり遅くなってしまいました。このままだと宿も取れないかもしれません。」


既にワンダのコネが効く宿屋を5軒程回ったのだが何処も満室だったらしい。


どうもヘイオス王都近辺の宿屋の多くは貴族や兵士御用達の宿が多く、特に貴族が宿屋を利用すると他の民間人や兵士を追い出してでも部屋を準備するというな大変腐った優遇が成されているらしい。


兵士にしても貴族ほどでは無いが似たような優遇があるらしい。


本当に面倒くさい国だと思う。


ワンダはそういった宿屋を避けて探してくれている様だが、そういった宿は商人がこぞって利用している為、中々空きが出ないのだそうだ。


「此処もダメでしたね…残るは…やはりあの手を使うしかない様ですね。酒場に向かいましょう!」


「酒場?確かに飯は食ってないがウルは既にこんなだぞ。」


武具屋で着替えたウルは大きく舟を漕いでいる。鎧はまだ調整中なので服だけ着替えたのだが、鎧の下に着込む物を選んでいるためかなり薄着だ。


胸下が割れたタンクトップに短パンと膝上まである長いソードブーツを履いているだけなので未だ上から俺のワイシャツを羽織っている。


ワイシャツの下が裸でなくなっただけ大分マシになったと思う。


「酒場で空き部屋を借りるんですよ。ワタクシも顔馴染みになってからは何度か泊めさせて頂いていたので頼めばいけるかもしれません。勿論客である事が条件ですがね。ウルさんをベッドに運んだら一杯付き合ってくださいね。」


「そういう事なら致し方ないな。というか俺も腹に何か入れたいから寧ろ丁度良い。」


牛車を走らせてワンダ行きつけの酒場に向かった。


「この店はギガピグレット亜種の上質な肉を提供する知る人ぞ知る名店なんですよ!」


多くの人で賑わってるワンダが言う「知る人ぞ知る」名店。


これだけ賑わっていれば誰もが知ってるんじゃないかとツッコミを入れたくなる酒場「肉重亭」という店に入った。


店主と話をつけて部屋を借り寝息を立てているウルをベッドに移動させてカウンターで店主と話すワンダに駆け足で駆け寄った。


「俺の頭の右半分が白いんだが!?」


厳密に言えば右側の約3割の髪が白髪になっていた。


眉の先から太いラインを引く様に白くなっており耳の裏側まで白髪が広がっていた。


「ファッションじゃ無かったんですか?ワタクシが初めてお会いした時からそうでしたよ?」


「こんなアバンギャルドな格好なんて好んでするか!三十路を超えたオッさんだぞ俺は。」


「いやいや、そこまでおかしくは無いですよ。ケンさん歳の割に若く見えますし。」


よくよく考えてみたら元の世界以降、今の今まで鏡で自分をちゃんと見た事がなかった。反射しそうな水晶や水面くらいなら見てはいたが、ちゃんと自分の姿を意識して見てはいなかったし。


「後ろはどうなっている?自分じゃ見えないんだ。」


「後ろまでいってますね。白と黒の斑になってますな。」


「うーん…機会があれば髪を染めたいものだが…」


「まぁ髪の事は今は置いておきましょう。それよりも今日は魔物から助けてくれた御礼は勿論の事、此の新たなる出逢いに感謝と感激を込めて僕が全て持ちますからっ!遠慮なんてせずジャンジャン飲んでくださいっ!」


「新たなる物語に祝して…」


「「乾杯」」


酒を一杯勢いよく煽ったワンダは一口目にしてすでにほろ酔い状態の様だ。証拠に顔が耳の先まで真っ赤になっている。


「それは有難いが無理して飲み過ぎるなよ。まだ色々と聞きたい話もあるしな」


「ダイジョーブですよ!僕は酔い潰れても話は覚えてますから!むしろ口が軽くなるのでもっと話やすいと思いますよ?」


「そうか…じゃあ酔い潰れる前に色々聞いておこう。」


「まっかせてくださいっ!」


「今日宝石商のリタさんに交渉中聞いたんだが、飛空挺の燃料になっている白い魔晶について何か知っているか?主にヘイオス帝国側の経緯やら動向やらを聞きたいんだが。」


白くなっていた髪の先を弄りながらワンダに質問した。


「魔石と国軍ですか。飛空挺に関する最新の話題はインスマス陥落の際、主力として実戦配備され見事な戦果を挙げたというものですが…魔石と飛空挺に関わりそうな裏ネタとしては「ルルイエ聖皇国への侵攻準備」と「森に蠢く三つの巨大な影」ですね。」


「ルルイエって魔法大国のか?また随分と物騒で迷惑な話だな。」


「なんでもインスマスでの飛空挺の戦果を受けて長年互いに不干渉だったルルイエの侵略を決めたらしいですよ。ここ数年魔石の市場に手を引いていた国軍が準備の為に再び仕入れを再開するらしいという情報がありますな。」


「俺達の一応の目的地はルルイエだ。目的地に行く前に焼け野原になっていたじゃ洒落にもならないぞ!」


「侵略行為が本格化すれば世紀最大の戦争になると思われます。ルルイエもヘイオスも互いに数千年規模に渡って栄えた巨大な都市国家ですからね。ルルイエは徹底した不干渉を今も貫いていますがヘイオスはそれこそ十数世代の間、ルルイエ侵略の声を上げながらも手を拱いてましたからね。」


「じゃあルルイエに行くのはやめるべきなのか?」


「寧ろ逆でしょう。今いかなければたちまち戦火に呑まれて目的の情報も消え去ってしまうかもしれません。それについ先日インスマスを完全侵略したばかりです。準備期間も考えれば数年は腹の探り合いになると思いますよ。」


戦争と言われて臆してしまったがよく考えれば、そんな日常茶飯事の様にすぐさま戦争など起こり続ければ既に世界中が焼け野原だろう。数年もルルイエに居る気は毛頭ないし、無責任な発言になるがルルイエにもヘイオスにも何の感慨も無い。

下手に戦火の渦に巻き込まれる前にこの世界からとんずらしたいところだ。


"カランカランカラン"


店の入口の門が開き小気味良い鈴の音が響く。


「もう一つの三つの巨大な影ってのは?」


「そちらの情報は負穢の森最大の大瀑布である「シアエガの奈落」近辺での目撃情報なのですが、ここ半年程の間、森の中に蠢く巨大な三つの人影が徘徊しているという情報です。出所は森で魔獣狩りを生業にしている冒険者なんですが実は知り合いでしてね。あの森にワタクシが赴いたのもその情報の真偽を探ろうとしたからなんですよ。」


「シアエガの奈落?シアエガってあの巨大な化物の事か?」


「シアエガ?シアエガは大瀑布の名ですよ。負穢の森の巨大な化物といえば「ホロウ」の事ですかな?」


「いや、森で出会った獣人の子供は確かにシアエガと言っていたぞ。」


「負穢の森の化物でシアエガなんて怪物がいるなんて初耳ですねっ!もしかすると大瀑布の名前の由来となった怪物ですかなっ??是非その獣人の子にも話を伺いたいですなっ!」


目がまた輝き出した。このままだと話が逸れそうだ。


「シアエガは置いといて…巨大な影と魔石の関係性が全く見えないが?」


「此処からが重要なんですよ。今回の調査でワタクシ、その正体まで辿り着きましてね。実はその人影…なんと此の国最大戦力の一つである「砦」の称号を冠した守護兵長達の影だったんです!」


最大戦力とか「砦」の称号とか言われても何が何やら分からない。というか後ろが騒がしんだが…


「実はその守護兵長達に遭遇した時にワタクシの秘蔵っ子を忍ばせましてね…」


ワンダの襟首から一つ目の蜥蜴が首を出した。


「コイツがワタクシの秘蔵っ子のパンカです。ミラーズリザードという魔物なんですがコイツはその中でも絶滅寸前の古代種でして視覚情報だけで無く音や臭いまで瞳に記録して伝達魔法を使って映像を直接脳内で再生してくれるかなり優秀な相棒なんです。」


それはなんとも羨まし…けしからん能力だなっ!能力を聞いた瞬間、女湯を想像なんて、していません。


「なんとも素晴らしい能力だな。で、それで巨人に張り付いたソイツから巨人達と魔石に関する情報を観たという訳か。」


「ご明察です。なんでも飛空挺の燃料である白い魔晶はもう一つの最大戦力「劒」の称号を持つハルベイン・テオ・メルティンが負穢の森の「奴等」と呼ばれる者達から奪い取っていたものらしく「砦」の巨人達にその情報を開示していたのですよ。」


ハルベイン・テオ・メルティンか。


俺の考えに間違い無ければこの名前は覚えておかなければいけない。


「今の二つの情報はまだワタクシしか知らないものなので他の方には絶対に内密にしてくださいね。下手に情報を流すと厄介事に巻き込まれるような事案ですからね。特にルルイエの件は更に調査しながら小出しで情報を売っていこうと思ってますから。」


「売るとかかなり悪どいな。」


「ケンさんの世界では分かりませんがこの世界、特にヘイオスでの情報は命と等価ではない。事と次第によっては命より重要な物で溢れてますからね。」


「まぁこの世界が俺のいた世界より物騒なのは理解しているつもりだが、命より大事ってのは言い過ぎじゃないか?」


「ワタクシは半分以上趣味で情報屋も兼業していますから色々な人の顛末も目にしているんですよ。情報を持たぬが故に蹂躙される村々や情報に踊らされ全てを失った過去の権力者、情報を知ったが故に命を落とした勇敢な戦士達…手にした情報に対して彼等がどう行動するか迄は責任は持てませんからね。」


漠然とたがワンダは見かけの割に人生を左右する様な様々な経験を経ているのだろう。趣味故とはいえ、そういった中で生まれた独自の価値観があるんだろうな。


「だからこそワタクシは必要な情報は必要な時に正統な対価で望む方に取引されなければならないと思うんですよ。」


確かに今ルルイエを侵略するらしいぞとか言われてもどう考えるかどう行動するかは知り得た者次第だ。そういった不確かな部分を割り切る為の売買でもあるのだろう。


「魔石と飛空挺に関しては分かった。後は魔法に関してだが、ワンダは其処ら辺は疎いんだったか?」


「何が知りたいかにもよりますね。原理や知識はからきしですが、魔導書や魔道具の簡単な概要や流通に関しては少しはお話できると思いますよ。」


「魔導書か。やはりそういった物もあるんだな。」


「魔導書は簡単に説明すると魔術の使用法を記した本です。普通の本に記された物だけでなく魔石や魔晶を粉末にして紙とインクに練り込まれた物なんかもあるのですが、そういった物は適正次第で読むだけで魔法を会得できる物もあるんだとか。」


「それは便利だな。じゃあ魔導書ってのは基本的には読み物なのか?」


「眉唾物ですが魔法書と呼ばれている魔導書のより高位な物では封印魔法を施された魔法書から精霊や神魔を召喚できる物なんかもありますね。儀式の媒介に成り得る物もありますよ。代表的な物だと最古の魔法書「エイボンの書」や「ネクロノミコン」なんかが有名です。魔導具については…」


「なになに〜?今、魔法書って言わなかったかなかな?」


唐突に黒いローブを羽織った黒縁眼鏡の少女が後ろから飛びつき二人の間に割り込んできた。

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