赤色
ずっと憧れの絵師さんがいる。その人は綺麗な赤の濃淡だけで絵を描くのだ。
「どうしよう、夢みたい…」
その絵師さんは定期的に抽選で1人だけ、間近で自分の絵を描くところを見せる募集をする。
それが、自分に当たった。
何度も募集のツイートをお気に入りに入れ、祈るようにして過ごしていた。
その絵師さんからのダイレクトメッセージが、自分に。
何年もファンだった。
初めてその人の作品を見たのは5年前。
その時からずっと赤の濃淡だけ。
一輪の彼岸花の絵だった。
崩れないそのスタンスや絵から感じるエネルギー、想いは年々ファンを増やした。
もう100回は読んだメッセージを穴が空くほど読む。
当選の2文字に、日時と住所。謎が多い絵師さんからのメッセージ。その日から上手く眠れないくらいわくわくしてその日を待った。
「いらっしゃい。星空さん?」
「は、はじめまして!きょ、きょ今日はよ、宜しくお願いします!」
星空は私のアカウント名だ。あまりに緊張して噛んでしまう。
絵師さんは優しい笑顔で迎え入れてくれる。
意外だったのは男の人だったことだ。
一度絵師さんがあげた写真に色の白い手が写ったことがあった。
その写真は絵師さんがすぐ消したので見た人も多くなかった。
部屋に通される。
アトリエは整然としており、本当に絵を描くためにしか使っていない様子だ。
失礼じゃないだろうかと思いつつ、つい部屋中を盗み見てしまう。薬品のような瓶がいくつか棚に並んでいる。
「絵に使うんだ。赤色を保つ特別な希釈液だ」
「そ、そうなんですね」
ぶしつけに見ていた事は怒られなかった。
絵の具ではない、ジップロックのようなパウチに入った赤色を手慣れたように薄める。
薬品のツンとした香りだ。
よかったら座っていて、と椅子を示される。
普段は日常的なツイートはしないので、短いながらも会話をしながらキャンバスに色が乗る。
繊細な筆遣いだ、うっとり見とれてしまう。
「…ああ、1パックじゃ足りないか…困ったな」
「絵の具のことですか…?」
肯定した絵師さんがビニールシートを引いたりして何やら準備する。
何をするのか想像もつかず、首を傾げる。
絵師さんが柔和に笑った。
「ごめんね、完成まで見せてあげたかったんだけど絵の具足りなくなっちゃったから…」
絵師さんが近づく。今日のために精一杯おしゃれした髪を撫でられ謝罪した。
「いつもは完成してから絵の具貰うんだけど、先に頂戴?」
後日、綺麗なアカイロの花火がキャンバスに描かれた写真がTwitterに掲載された。
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