至極一般的なモブキャラである男子高校生の俺がクラス転移に巻き込まれてしまった件について。

しらかば

第1話


 新学期が始まったばかりの教室の片隅で、一人寂しく漫画雑誌を読む俺の名前は二戸和真にとかずま。高校二年生だ。勘違いして欲しくないのだが、決して俺は進んでぼっちになっている訳ではない。寧ろ、他の人と会話をするのは好きな方の人間だと俺は自負している。


 辺りを見渡すと、俺以外のクラスメイトは各々でグループを形成した上で和やかに談笑をしている。

 甘木恭介あまぎきょうすけ姫井麗華ひめいれいかを中心としたクラス内カーストトップ男女で構成されたグループは勿論、向かい側の教室の隅っこでは、俺と同じくオタク趣味を持った人々が集まったグループが昨晩放送された深夜アニメについて語っていた。


 本意を言えば、俺もオタクなので同じ趣向を持っている彼らの輪に入れて欲しいのだが、それを行動に移せない理由が俺にはある。


「おはようございます。今日もいい朝ですね、和真かずま


「…ああ、おはよう。冥冥めいめい


 自分の唯一の友達である女子生徒に話しかけられた事に気が付いた俺は、読んでいた漫画雑誌を閉じて笑みを浮かべながら挨拶を返す。

 その瞬間、教室の中心に位置する野外で活動する部活動に所属している男子で構成されたグループの人達から浴びせられる私怨が篭った視線を俺は一身に感じた。


 …さっき述べた理由の原因が俺に朝の挨拶をした彼女だ。

 彼女の名前は園田冥冥そのだめいめい。彼女の一見変わった名前の由来は「冥冥之志めいめいのこころざし」という四字熟語らしい。言葉の意味は他人に知られることのない志や思い、または、他者にいわず黙々と努力に励むこと…だそうだ。彼女の生真面目な性格と合致している良い四字熟語だと思う。


 そんな彼女が持つ日本人とは思えない程の艶やかな金髪と165cmの長身と均整のとれたプロポーションはアメリカ人の母親譲りだ。目鼻立ちもかなり整っており、校内では姫井麗華に並んで男子生徒の人気も非常に高い。


 さて、察しの良い皆さんならば、なぜ冥冥が原因で俺がこのクラスで孤立しているのか既にわかっただろう。


 …詳細を単刀直入に言うと、俺の周りの男子生徒による嫉妬だ。

 俺の容姿は目つきが鋭いことに加えて、常にライトノベルを読んでいる影響で、「怪しい雰囲気のオタク」という印象が先行している。そんな俺が容姿端麗である冥冥と仲が良いことに嫉妬しているクラスの男子に俺は目のかたきにされているのだ。


 冥冥の美しい容姿や愛想の良さに惹かれて、彼女に恋い焦がれる男子にとっては俺の存在が邪魔で仕方がないのだろう。彼らの気持ちは十分に理解できるが、だからと言って憎しみの感情をぶつけられるのは気分が良い物ではない。


「和真が読んでいたのは、ジャンプの最新刊ですか?私、まだ買ってないんですよね……」


「そうなんだ。それじゃあ、俺が読み終わったらすぐに貸すよ」


「本当ですか、和真!ありがとうございます!!」


 冥冥はそう言って屈託の無い笑顔を俺に向ける。つい先ほどまで、脳内で様々な考えを張り巡らせていたが、純粋な彼女の笑顔を見た今では、自分の悩みがもうどうでもよくなっていた。


 その後は、隣の席である冥冥との会話を楽しみながらHRまでの時間を潰していると、朝のHRの開始を告げるチャイムと共に黒野影丸くろのかげまるが教室に入ってきた。

 …こう言っては彼に失礼だが、このクラスにて真のぼっちは黒野君だろう。


 一年の時から黒野君とは同じクラスだが、彼が言葉を発する姿を見たことは一度もない。ボサボサした黒い前髪により、彼の顔すらも伺ったことすら無い。

 完全に余談だが、彼は俺の体育の時のパートナーである。


 チャイムが鳴ったため、担任の先生が教室に来るのを待ちながら授業の用意をしていると、突然教室の床に奇妙な形の魔法陣が現れた。


 碌に言葉を発する時間すらも与えられずに教室に居た俺達は、魔法陣から放たれる眩い光に全身を包まれたのであった……。


 


 






 


 

 

 

 


 

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至極一般的なモブキャラである男子高校生の俺がクラス転移に巻き込まれてしまった件について。 しらかば @tosiro01

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