第6話

「でもね?私、すごく幸せだったんだよ」


 元カノは眉を八の字にして、つらそうに笑った。


「だってお前…」

「最初はまあ、あれれ?って思ったけど、でも別にイケないから不満ってのはなかったよ?…そういうもんだよねえ?」

「え…わたしに聞かれても」


 姉に同意を求めたのに困惑で返されたので話が繋がらない様子の元カノ。


「と、ともかく、いつもちょっと引いて『俺は参謀タイプ』みたいな感じのキミがさ、なんがすごくいっぱいっぱいで私を求めてくれてるの…嬉しかった」

「ほお……」

「先輩こっち見ないでください」

「前戯もいっぱいしてくれたよね。ずっとキスばっかしてて、次の日まで唇腫れちゃったくらい」

「…そういえばそんな日も…」

「先輩思い出さなくて結構です…あれは、挿入するよりその方がお前が気持ちよさそうだったから…」


 なんだこの羞恥プレイは。それに、それならなんで…


「別にキミとの本番が気持ち良くないなんてことなかったよ。繋がってるだけで、幸せだったもん」

「じゃあなんでだよ…」

「キミがだんだん、セックスの時につらそうになっていったから…」

「………」


 元カノの言うとおり、俺とこいつのセックスの相性は決して良くはなかった。俺のペニスはMサイズのゴムでも微妙に緩いくらいの、貧弱とは思いたくはないけど立派だとは言えないものだと思う。


 女性器の深さなんてのはそれほど個人差なんてものはないとも聞くけれど、身長も高めで小柄とは言えない元カノと男としては小柄な俺とは多少ミスマッチがあったと思う。あとは形とかなんだろうか。よくわからないけど。


 AVやらフィクションやらでよく見るような女性が激しくイクような様子は、俺とのセックスで元カノが見せることはなかった。俺が達した後、毎回こいつに抱きしめられながら「よかったよ」と囁かれるその言葉をだんだん信じられなくなっていった。


 俺は自分のことよりも、こいつをできるだけ気持ち良くさせてあげられないか、なんとか女としての歓びを俺が与えてあげられないか、セックスをしながらそんなことばかり考えるようになってしまった。でも俺にはできなかった。


(おい、そんな顔してんなよ、みんな見てるぞ?)

(え、うそ…)

(うそ。まあ俺くらいしかわからんと思うけど。昨晩はお楽しみでしたね)

(この!ばか!えっち!)

(蹴るなよ!)


 高校時代、元カレとのデートの翌日に教室で前夜の行為を思い出していた時の蕩けるような表情、あれを俺がさせることはできなかった。


 気がつけば、セックスの最中に元カレと比べられているんじゃないか、そして落胆されているんじゃないか、という猜疑心が生まれていた。


(ご、ごめん、早くて…)

(女の子はそういうの気にしないよ〜。がんばったね!よしよし〜)

(おまえなー…)


(下手で悪い…)

(もー、そんなこと言ってないよ〜。ね、ぎゅーってして?)


(ん?出ないの?)

(なんか今日調子悪いっぽい、ごめん…)

(そんな日もあるから謝らなくていいって!…じゃあねえ、お口でしてあげるね)

(それじゃ俺ばっかりで…)

(それじゃ、私にもお願い、ね?)


(今日はそんなに頑張らなくていいから、ぎゅーってしてくれてたらいいんだよ?)

(悪い…)


「私、そんなこと気にしないでっていつも言ってたよね…」

「気にしないでいられる訳がないじゃないか…」


 それに、結局、


「だいたい…あの夜の映像ちょっと見れば、わかるだろ。お前だってやっぱりああいうのを求めてたんだろうが」

「それは…ううん、あれ見られたら、そう思われるのは仕方ないよね…」

「仕方があるもないもないだろ」

「………」


 それでも俺はセックスレスになることなしに、頑張ったんだよ。それなのに、この裏切りはないだろう?

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