第5話

「よう…」

「おじゃまするね」

「おじゃまします…」


 翌週末の午後、先輩と元カノの姉妹が俺のアパートの部屋を訪れた。


 元カノの様子をちらりと見ると、ちょっと痩せていたが病的ということもなく、安心した。思わず顔が緩んでしまいそうになったが、改めて俺が受けたことへの怒りもこみ上げてきて彼女を睨んでしまう。


「もう、そんな顔してないでよ…」

「あ、すいません」

「………」


 先輩にたしなめられる俺。そして無言の元カノ。


「あ、お茶入れようかな?」

「いい、俺がやるから」

「そう…だね」


 もうこいつが持ち込んでいた食器などはまとめて送り返している。もう彼女でもないのにお茶を入れさせるのは不自然だろう。紙コップにペットボトルの紅茶をついでわたす。


「ありがとう…」

「えーとね。まずは報告。この子の性病とかの検査の結果は大丈夫だった。そこは一安心ね。妊娠もしてない」

「ああ、俺も大丈夫でした」

「そ、良かった」

「…」


 ほとんど生でしたこともなかったとはいえ、どちらかが病気を持っていたら感染する可能性はあっただろう。元カノについてはその元カレとの生での行為についての検査という意味が大きい。俺とセックスしている時期に並行して元カレともしていた訳なので、何かあれば俺にも感染のリスクはあった訳だ。先月のあの日からしばらく後に先輩からの提案でそれぞれ性病などの検査を受けていた。


 妊娠については、ホントにしていなくて良かったと思う。俺の子の可能性も決してゼロではなかっただろうし。本音を言えば、元カレと子供まで作られてたらまた俺が死にそうな気分になりそうだったから良かったと思ってる。


 元カノも安堵の表情を浮かべたが、すぐ表情は暗くなりなにか逡巡しているようにうかがえた。


「あの…」

「ここであまり長話はしたくないんだ。早く本題に入ろう」

「…うん」


 何か言いたそうな元カノの言葉を遮って、本題に入ることを促す。今日はこいつが不満だったことを俺が聞く会なんだそうだ。


「またそう急かすし。いちいち怒らないで?気持ちはわかるけど」

「…すいません」


 また怒られた。先輩は元カノの背中をさすりながら、落ち着いて、とか、ゆっくりでいいから、とか伝えている。まあ先輩はこいつには甘々だったからなあ。俺の分の方が悪いのか…でも俺悪くないよなあ?そういえばあの時先輩がこいつをひっぱたいたのは驚いたな。初めて見た。


 なんてことをぼんやり考えていると、元カノが話し始めた。


「ええと、うん、私も言うことは言っておくね…」

「…ああ」

「私とキミって、セックスの相性は正直悪かったよね…」

「ブーーー」


 先輩が紅茶を吹き出した。俺はそっとティッシュの箱を差し出す。


「そういう生々しい話をするつもりだったのね…うん、続けて…」


 わたしなんでここにいるのかしら…あらやだ絨毯染みになる?…とっくに汚いしまあいいか…とか言いながら、先輩は顔や絨毯を拭いている。とっくに汚いは余計ですよ。


「まあ、ここに引っ越してきた夜に初めてした時、お前はなんつーか、あれ?って顔してたよな…」

「ばれてたかー…ごめんね…私が知ってるセックスとだいぶ違って、すごく優しかった」

「取り繕わなくていいよ、今更」

「そんなことないよ?確かに期待してたのとは違ったし、まあ…下手だなーふふって思ったし、そんなに気持ち良くもなかったけど」


 先輩が口を半開けにしてすごい顔をしている。わかる。俺もそんな顔したい。


「でもね、私、すごく幸せだったんだよ」

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