薄明の鬼 ~人と魔物と龍の世界で~

蟹野 康太

プロローグ

死の始まり

 必死に走って、転げまわって、辿り着けなかった。


 今、自分の目の前には巨大な魔物がいる。

 青い肌、ほぼ全身を覆う褐色の獣毛、筋肉で構成された体格、自分とは比べ物にならない巨体……木々を小枝のようにへし折って現れた巨獣。


 だが、やることに……やれることに変わりはない。

 こいつを引き付けて逃げる。

 それでみんなを……あの子達を守れるかもしれないんだ。


 巨獣の金眼がこちらを一瞥する。



 逃げ、



 空を舞った。

 視界がせわしなく回転し、落ち着いたと思ったら天地が傾いている。


 ……ああ、殴り飛ばされたのか。


 目の前を遮るように生えた雑草の奥に、自分を殴り飛ばした巨獣がいる。いや、殴り飛ばしたのではない。進行上にいて邪魔だったから払いのけただけか。

 その証拠に、こちらを完全に無視して村の方に巨獣は歩んでいる。


 やばい、みんなに知らせなきゃ。


 そう考えても体は動かない。声が出ない。

 口の中が鉄の味で満たされている。

 目の前が薄暗くなってくる。


 ……寒い。

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