2-6 霧亜と地底世界
———— Kiria
「霧亜、あの奥、扉がある」
智奈がマグマの底を指差す。
ラオが地面を割って、能利のマグマのコントロールのおかげで、マグマの底に扉を見つけた。
「あの下に行くの? 大丈夫? 気を付けてね」
智奈の第一の世界の母親、レンミが心配そうな顔をしてオレらの後ろではらはらとオレたちを見つめる。
「俺がついてるので!」
ラオが、智奈の手を握った。
「何を一丁前に」
オレはラオを小突く。
「智奈を抱えて下に降りれるか?」
能利が、ラオに訊ねる。
ラオは大きく頷いた。
「智奈空気みたいに軽いからな。むしろ落としそう」
「落としたらお前をマグマにぶち込むからな」
オレの警告にラオは変顔で対抗してきた。
オレは能利に魔力を貸しつつ、開けた地層から土を拝借して、ラオが飛び移れるようにある程度の足場を作ってやる。
「マジか」
能利がぼそりと呟いた。
「なんだよ」
「いや、こんなに魔力使ってんのに、片手間で魔術使えるとは思わなかった」
「お、おう」
まさか能利にお褒めの言葉を貰うとは思ってなくて、オレは軽い返事しか返せなくなる。
ラオは智奈をおんぶすると、下へ飛び降りて行った。続いて、ナゴもラオと同じ軌道を渡って降りる。青龍は、ふわふわと簡単に下に降りていった。いや神様、この試練手伝ってくれないのかよ。
下で、豆粒の大きさにしか見えないラオが、どうにか扉を開けようとしているが、ビクともしてないように見える。
オレも能利も、かなり汗だくでこのマグマを地底まで開けてるんだ。そろそろ限界も近いかもしれない。
ラオが、地下から何かを叫んでいる。が、流石に何も聞こえない。
〔ペ…ダ、ント〕
頭の中に声が聞こえた気がした。ザラザラと、音質が悪い。誰の声かもわからない。
が、下の二人がオレの六芒星のペンダントをよこせって言ってるんだろうと推測する。オレが勝手に、どっちかの声を聞こうとしたのか。
アズにペンダントを
智奈が渡したペンダントを扉にはめ込んだのか、内開きに扉が開く。智奈、ラオ、そして動物たちは無事扉の向こうに消えていった。
「よし、じゃあオレが、先に降りるから」
能利に先に行かれたら、マグマが塞がる。
「俺がマグマを開けておく保証はない」
「信じてるぜ、お兄ちゃま」
能利に満面の笑みをプレゼントすると、能利はため息をついた。
智奈の両親に会釈をすると、二人は手を振ってくれる。
淵から飛び降り、無事にオレは能利に焼き殺されることはなく、能利も扉の中に入った。
扉の向こうは、洞窟のようだった。オレと智奈が並んで手を広げればお互いに壁に手がつくくらい狭い。天井も手を伸ばせば掌がしっかりつく。空気はじめじめとサウナのように蒸し暑い。オレ、サウナ嫌いなんだよな。
暗く、光源のない空間だった。能利が自分の手に火を灯して明かりを作ってくれる。すると、能利の炎の近くにある壁がじりじりと燃えた。岩じゃない。ここも、この洞窟全てがガンと同じ、木でできていた。
変に壊すと、またマグマに襲われそうだ。
「この一本道を進めば、朱雀はいる」
智奈の頭に乗ったままの青龍が、教えてくれる。こんな素直に教えてくれるってことは、このあと何かしらありそうだな。
青龍に教えられ、オレたちは洞窟をひたすら進んだ。
先へ進むと、広い空間が待っているようで、明かりが見えてくる。能利は自分の火を消した。
光に吸い寄せられていくと、そこは大空洞になっていた。光源は、幅五十メートルほどのマグマの川だ。その川の上流には、二十メートルほどの滝。その滝と川の流れが全てがマグマで、所々から煙が上がっている。地獄、っていう印象が最適かもしれない。
「滝の奥、何か光ってないか?」
能利が大きな音を立てて流れるマグマの反り立つ壁を指差す。
目を凝らしてみると、マグマの壁の向こう側に、直径数メートルの穴があり、そこに鎮座するようにマグマを透かして光る赤い大きな鳥の姿があった。
黄色から赤色にかけて、様々な毛色を持つ、アズが獣化した時よりも大きな鳥。黄色い尾っぽは穴から垂れるほど長い。羽を閉じて、フクロウのようにじっとそこに佇んでいる。
アズ、ナゴ、能利のフードの中にいる蜘蛛は、青龍の時ように震えるようなことはない。
「そういえば、能利って龍の獣化動物いるよな?」
あの赤い龍かっこいいよな。今連れてきてないっぽいけど。
「ザンリか? あれは龍じゃない。鯉の獣化動物だ。龍に成れない鯉だから、龍の姿は長くは持たない」
「へえ、でも龍にはなるんだろ? 今度乗せて」
「あいつに気に入られればいくらでも」
気の難しい獣化動物なのか。
「あれが、朱雀?」
智奈は、川に足をかけて、ラオにTシャツを引っ張られながら首を伸ばす。この光景、船の上でも見たな。
「寝てるみたいだけど」
オレは大きく息を吸い込んだ。
「すいませーん、調停者の者なんですが!」
朱雀はピクリとも動かない。
マグマの向こうってことは、また能利にマグマを開けてもらう必要があるのか。
オレの視線に気付いたのか、能利は木のでこぼこした表面の地に手をついた。
「魔力貸せ。俺だけじゃあの大きさは無理だ」
オレは能利の肩に手をついた。
数秒間、能利はじっとマグマの滝を見つめている。マグマがぴくりと動くことも、何かしらの振動があるわけでもない。
「能利さん、起きてる?」
能利の肩にある指先をトントン叩いてみる。
能利は困惑気味にオレを見てきた。
「動かない」
「は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます