混血の兄妹 -四神の試練と少女の願い-

伊ノ蔵 ゆう

プロローグ

0-0 兄妹の異世界転移

———— Unknown



 砂埃の舞うビルの屋上。

 屋上の柵は、全て、高熱の炎に溶かされ、ありえないほどひしゃげている。

 初めて嗅ぐ、硝煙の匂いが少年の鼻を刺す。


 月の輝く夜の空に、八咫烏やたがらすが鳴いた。


 灰茶でくるくるの髪を風に揺らめかせる少年は、歯を食いしばって目の前に立つ、黒いコートの男を睨みつけている。少年と対峙する、栗色の髪を一つに縛った男は、風に吹かれて佇んでいた。


 少年はその男を見て、頭に血が上るのを感じていた。

「なんでてめえがここにいんだ」

 少年が長年忌々しいと思っていた男に、十年間も追い求めた続けた男に悪態をつく。


 その男は、深く青い色の瞳で少年を見据えると、口角をあげてへらっと笑う。

「こんなはずじゃなかったんだけどな」


 少年は、締め付けられる胸の内を、思いの丈を口から吐き出しそうになる。が、それは混ざり合ってただの誹謗しか出てこない。

「てめえふざけたことぬかしてんじゃねえぞ」

 少年は自分の右肩をいつの間にか強く握りしめていた。黒いパーカーの下、少年の右肩には、封印の魔法陣が刻まれている。目の前の、悪態をぶつける父親につけられた、小さな時の謎の封印術式。


「霧亜、智奈はあっちの世界で暮らしちゃいけないんだ」


 父親の悲しげな顔を見て、少年はどんな罵倒を浴びせればいいかわからなくなる。


 その時、少年にまた別の男がぶつかってきた。強烈な痛みが、少年の脇腹を襲う。その脇腹には、鋭い棒状のナイフ。

 体当たりをされた少年は、後ろに転ぶ。後ろにいる、守らなければいけないはずの、白いワンピースの少女にぶつかり、少女は十階建てのビルの屋上から、身を投げ出された。その顔は驚くように、少年に手を伸ばして助けを求めている。

 少年はその子の名前を叫びながら、いつの間にか自分もビルの屋上から飛び出している。少女を掴めたものの、このままじゃ地面に激突して二人とも死亡する未来が見える。


 いやいや、今死ぬのはちげえだろ!


 目が覚めたように、少年はぼんやりとしていた頭がフル回転する。パーカーのポケットからとある紙を取り出すと、それを目の前に、地面にぶつかる直前に突き出した。

 ブラックホールのような大きな穴が広がり、地面にぶつかることなく、少女を抱える少年は穴に吸い込まれた。


 ふわりと風が吹いて、少年たちの落下速度が落ちる。


 少年はどしゃりと、どこかに背中から打ち付けられた。

 ある部屋に転移したのはわかった。自分の家であることは、落下の衝撃で激痛に顔を歪めた数秒後にわかる。それと同時に、目が霞んできているのもわかってくる。

 内臓を刺された痛みって、火傷とまた違う痛みなんだなあ。ぼんやりとそんなことを思う。身体中の血液が鼓動をして、その脇腹からどくどくと出ていく感覚がある。

 ちょっと興味本位で傷に触ってみると。ぬるりとした大量の血が、手に付着した。


 ああ嘘だろ、嫌だな。ここで死ぬのは流石に勘弁なんだけど。


「霧亜!」

 少女の声が聞こえる。


 まあ、あいつを守れたんなら良かったか。

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