第3話 『かな』という女

 翌日の昼休み、皆昼食を仲の良い者同士で取っている中、私こと姫神眞銀は自席にてお弁当を食べながら翔から借りている本を読む……フリをして教室の後ろに座る翔を盗み見ていた。


 昨日見た翔とやり取りをしていた謎の女『かな』。

 あの後翔は気絶したままだったので詳細は聞けていない。

 授業の合間にある小休憩の度聞きに行こうと思ったが、上手いこと翔が席を離れてしまい聞けず仕舞いだ。


 しかし今は昼休み。

 長時間のこの自由時間ならチャンスは幾らでもある。


 翔は今クラスメイトと趣味の話をしているようだ。

 そんな所に割って入れる程私のメンタルは強く無い。

 翔に群がる男子生徒が居なくなったら話しかけに向かおう。


『それじゃあな翔ー』

『おう』


 笑談が終わり、男子生徒は手を振り翔から離れる。

 漸く翔はフリーになった。

 絶好のこのタイミングを逃すわけには行かない。


 手に持った箸を置き、開いていた本のページに栞を挟む。

 それを仕舞い立ち上がろうとしたあと少しのところで、中腰の私に声を掛ける者が現れた。


「姫神さん今お昼? 私たちも一緒に良いかな〜? あ、この席借りちゃおーっと」

「あはは、出た加奈子のゴリ押し」

「え、ちょっと……」


 脳天から話しかけてきたのは、忘れもしないこの間話しかけてきた二人組の女子生徒たちだ。

 まだ許可もしていないというのに、片割れの女子一は隣の空席を勝手に拝借し、図々しく私の机に連結させる。

 それを見たもう片割れの女子二は腹を抱えて爆笑。

 とんでもないパワープレイだ。


「あの、えっ……と」

「ねぇねぇ姫神さんこの前の本何処まで進んだ? 中盤の主人公がヒロインを別の男に取られそうになる所とかちょー熱い展開だよね! はぁ〜次巻が楽しみで毎日夜も寝られないよ!」

「あ……」

「あはは加奈子、姫神さん怯えてるから」


 大声で話しかける二人に究極の対人恐怖症である私は、絶賛人見知り+あがり症を発動。

 今は口を開いても一文字しか発することが出来ない状態だ。

 てか何勝手にネタバレしてくれてるんだ、私まだ序盤を読んでるんだぞ。


 私はすぐさま教室の後ろにいる翔に救助要請の視線を飛ばす。

 これだけ大声で二人は話しているんだ。

 翔の耳に入っていない訳がない。

 しかし翔は一切こちらを向かず、ずっとスマホを見つめ続けていた。


(な、何で気付かないのよ! 幼馴染みの私が困っているでしょ! 助けに来なさいよ!)


 再び翔に視線を向ける、今度は怒りのオーラも添えて。

 しかし翔は気付かない。


 するとずっとスマホを見つめ続けていた翔は、私の視線に気付いたのか徐に立ち上がった。


(気付いた……のかしら?)


 目は合わなかったがスマホを仕舞う翔。

 そしてそのままこちらに向かってくる……と思いきや、教室の前側の扉から重い足取りで外へと出て行った。


(ちょ……ちょっと! 何処いくのよあのバカは! 私を助けなさいよ!?)

「ねぇ姫神さん聞いてる? あ、そだ! 今度私も本持ってきてあげるよ〜私のオススメはね……鬼〇の刃!」

「出た鬼〇、社会現象とかになったアレでしょ?」

「そう! 鬼〇は良いよ〜主人公の炭〇郎がね……」


 お気に入りの漫画を大容量のマガジンで熱弁マシンガントークする女子一。

 翔を追いかけたいが、この状況で思うように足が動かない私は、昼休み終了まで女子二人の相手をさせられた。

 ……覚えておきなさい翔。

 帰ったらこの怒りを直接ぶつけてやるから――。

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