第2話 告白

 放課後、俺は一大イベントに直面していた。


「て、天道君……私と付き合って下さい!」


 人気の無い校舎裏に少女の声が響く。

 この場にいるのは目の前の女の子と俺だけ。

 相手の名前も一致しており、つまりこの告白は俺に向けられたものだった。


「ど、どうして俺なんだ? 確か君とは接点は無いはずだけど?」


 顔は何処かで見たことあるが、クラスも違ければ名前も知らない。

 そんな相手にいきなり告白されても、最初に現れる感情は『疑問』しかない。


「お、覚えてないかな? 私が生徒手帳を落としちゃって、天道君が一緒に探してくれたの」

「……あ、思い出した! 確かアニメキャラのキーホルダーの子か!」


 学校の小休憩時、廊下で何かを探している子が目に止まったので話を聞いてみた所、どうやらその子は生徒手帳をなくしたらしい。

 中には大切なものが入っていると言うので、その生徒手帳探しを手伝った記憶がある。

 なる程、それがこの子だったのか。

 通りで見覚えがあると思った訳だ。


「それで……どうかな?」

「えと……そうだな」


 彼女の気持ちは普通に嬉しい。

 今日までの人生で、女子に告白されたのはを除いていない。

 それにこの子、見た目はかなり可愛い、上位に食い込める程の素質を持っている。

 けれど……。


「ごめん、やっぱり……」

「……な、なら! お友達はダメ?」

「え?」

「まずは友達から……始めませんか?」


 やはりいきなり彼氏彼女はあり得ない、そう思っていると少女は食い気味にそう提案してきた。

 正直そういったことはあまり好きではないが、ただ経緯も無く拒絶させる相手のことを考えると流石に可哀想に思える。

 どんな子なのか知ってからでも断るのは遅くはない筈だ。


「分かった、それならいいよ」

「ほ、ホント! よかった……」


 不安げな彼女の顔がようやく安心を見せる。

 それを見て、俺は一つ彼女に質問した。


「そう言えば名前は?」

「私、水野香菜です! 香菜って呼んでくれた……嬉しいな」

「ま、まずは水野さんで……」

「えへへ、それじゃあ私も天道君って呼ぶね!」


 満面の笑みで俺の名を呼ぶ彼女に、少し引きつった笑顔で応える。


 見たところ悪い子じゃなさそうだし、インドアな俺とももしかすると趣味が合うかもしれない。

 けれど彼女を諦めていないのと、結構グイグイな所が少し困りどころだ。


「ねえ、LI〇E交換しようよ!」

「あ、ああいいよ」

「やった! これ私のアカウントね!」


 彼女のスマホに映し出されたQRコードを読み取ると、可愛らしい画像を使ったアカウントが現れる。

『かな』と書かれたそのアカウントを登録したら、一通のメールを送って連絡先の交換は終了した。


「今日の夜連絡するね!」

「う、うん」

「それじゃあまた明日!」

「また、明日……」


 笑顔で校門へ向かう彼女は、最後に俺に手を振り去って行く。

 それを見送り漸く一人になった途端、全身に疲れがどっと押し寄せてきた。


「意外と面倒な子……なのかな?」


 初めて話したからかも知れないが、あの子といると妙に体力を消費する。

 眞銀といる時も疲れるが、それとは別の疲れの様だ。


「とりあえず……帰るか」


 今日は帰って少し寝よう。

 夕飯に目覚めれば問題はない筈だ。

 そう思いながら、俺は鞄を肩にかけて校門を出るのだった。


 ◇ ◇ ◇


 時刻は午後五時。

 ベッドに横たわる俺は落ちてくる目蓋に耐えながらスマホを握りしめていた。

 その理由がこれだ。


『♪〜』


 眠気で意識が飛びそうになる直前、あと僅かという所でスマホの通知音がそれを阻害してくる。

 電源ボタンを押して画面をつけると、一通のメールが届いていた。


『天道君って今期何のアニメが好き? 私は鬼〇の刃かな!』


『かな』と書かれたアカウントから送られてくるそのメールに、俺は今日何度目かのため息を吐く。

 これで何度目のやり取りか分からないが、かれこれ一時間以上は経っている。


 家に帰ってきた俺は、真っ先にベッドのへと向かった。

 疲れた身体を休める為、意識をゆっくりと闇の中へ向かわせるが、あと一歩の所でスマホが通知音を鳴らした。


『えへへ、ごめんね天道君……夜まで我慢出来なかったよ♡」


 初めのうちは可愛いなと思ったが、今は少し鬱陶しさを感じてしまっている。

 何故ならこの子、恐ろしく返信が早いのだ。

 送り返しても直ぐに既読が付いてしまう。

 恐らく俺とのトークを開きっぱで見ているのだろう。

 返信が早いのは良いことだが今回ばっかりはそれはやめて頂きたい。


「これじゃあ寝れねぇよ……」


 もういっそ一度無視して寝るか。

 これ以上は起きてられん。


「おやす……」

「――翔、今日も愚痴りに来たわよ」


 寝入る一歩手前で部屋の扉が勢いよく開く。

 またも仮眠の邪魔をされた俺は、苛立ち混じりでその声に応える。


「眞銀……今はマジで勘弁してくれ、今日は色々あって眠いんだ」

「何よ、部活もしていないアンタが何に疲れるって言うのよ」

「うっさい……お前にはわかんねぇよ」

「ふんっ!」


 無防備に寝ている俺の腹に、眞銀は勢い良くエルボーを入れてきた。

 打撃の威力は十分、予想外のその攻撃に構えていなかった俺はその衝撃に一瞬で意識を奪われる。


『全く、折角来たのに……』


 意識を失う前に最後に映ったのは、銀髪美少女が不貞腐れている顔だった。


 ◇ ◇ ◇


 ベッドに気絶して横たわる幼馴染みを見て、私は深くため息を吐く。

 折角人が態々逢いに来てあげたのに何たる態度よ。

 ……私だけ逢いたいみたいで馬鹿みたいじゃない。


「起きるまでゲームでもして待とうかしら……」


 折角今日もいっぱい愚痴を持ってきたのに、相手が寝ているのでは不完全燃焼だ。

 意識が戻ったら愚痴会決定、今日は豪華四時間スペシャルよ。

 そう思いテレビの横に置いてあるゲームパッドを手に持ち、中央の電源ボタンを押そうとしたその時だった。


『♪〜』

「?」


 背後から軽快な音と共に翔のスマホが振動する。

 それも一度では無く二、三回ほど連続で。


「何かしら?」


 私は翔のスマホを勝手に手に持つ。

 本来ならこれはプライベートの情報な訳だが、幼馴染みである私に隠し事なんてさせないわ。

 無防備に寝ている自分を呪いなさい。


 そう思い手に持つスマホの電源ボタンを押して画面をつけると、そこに見知らぬ名前の人からメールが届いていた。


『天道君、寝ちゃった? お風呂かな? じゃあ私もお風呂入るね! 終わったら……また後で話そ?』

「……誰?」


 それを見て一番に現れた感情は『疑問』だった。


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