第16話 姉は邪魔をしたい

俺は今、彼女である柚羽とオシャレなカフェに来ている。


正直、姉の未那に監視されてる事が怖くて、パンケーキが喉を通るか心配なくらいだ。


「お待たせしましたー」


注文してからおよそ二十分、カフェの店員さんが俺たちの分のパンケーキを持ってきた。


一つは柚羽の大好物であるイチゴがたくさん乗ったとても甘そうなパンケーキ。もう一つはブルーベリーとラズベリーが散りばめられた甘酸っぱそうなパンケーキだ。


俺たちは早速、待ちに待ったパンケーキを口に運ぶ。


「ん〜!美味しい!」


ラズベリーの甘酸っぱさが、クリームの乗ったパンケーキとよくマッチしている。まさに絶品と言うにふさわしい一品だった。


「うん、確かに美味い」


柚羽に続き、俺も感想を口に出す。


店を見渡すと、他にも若いカップルや、子供連れの家族などもおり、店内はまさに盛況。せっかくのデートだが、少しイチャイチャしづらくなってしまった。


「優弥くんのパンケーキも美味しそうだね!」


「もしかして、食べたいの?」


「あ、バレた?ねね、ちょっと交換しよ!」


「ああ、いいよ」


俺もちょうどイチゴのパンケーキが食べたいと思っていた。これはいい提案だ。うん、いいんだけど…


「はい、あ〜ん♡」


…いやここであ〜んする!?さすがにこれは恥ずかしいよ!


「柚羽、ここではちょっと…」


「私も恥ずかしいけど、イチャイチャしたいから…食べて?」


恥ずかしそうにパンケーキを近づける柚羽。そんな顔されたら、断れないよ…


よし、食べよう。あ、あ〜……


ガッシャーン!


「!?」


「あ、ごめんなさーい」


どこか聞き覚えのある声が、店員さんに向かって謝っていた。


「お客様!大丈夫ですか?すぐに片付けますので、少々お待ち下さい!」


恐らくグラスでも落として割れたのだろう、すぐに割れたガラスの破片を回収していた。


…いや、姉さんだよね、これ、割ったの。


空気の変わった店内で、少し気まずそうに俺はフォークに乗ったパンケーキをすぐに口に入れた。


うん、美味しい。




カフェを出た俺たちは、映画館へと向かう。


「今日はどんな映画を見るの?」


「えーとねー…」


内容を聞くと、高校生の主人公が同級生のヒロインに一目惚れする所から始まる、恋愛映画だ。


こういう機会が無いと恋愛映画なんて見る事も無い。ましてや話題の作品なのだから楽しみだ。


俺たちはチケットを購入し、シアタールームへ入る。


座席はちょうど画面が見やすい好座席。それに、映画館なら流石の未那も邪魔をすることは出来ないだろう。


よし、この時間は楽しもう、そう思った時だった。


俺の隣から一つ隣の座席に一人、誰かが座った。


「あ。」


「ん?どうしたの?優弥くん」


「え?あ、何でもないよ」


声が出るのも無理はない。そこに座った一人は、明らかにそれまで俺たちのデートの邪魔をしてきた、未那だったからだ。


…おい!ここまでして俺たちの邪魔する!?てか、大胆すぎないか?後ろならまだしも隣って…


未那は俺たちに気付いていないフリをしている。こちらも知らないフリをするため、上映前の予告映像に映されていた文章に目を向ける。


『感動のラスト、あなたはきっと涙する…』


僕はもう別の意味で涙しそうだよ…何でここまでして俺たちのデートの邪魔するかなぁ…


そんなこんなで映画の上映が始まった。


終盤に向かうにつれ、主人公とヒロインのすれ違いなどがありもやもやしたが、確かにラストは泣きそうになる程に感動した。流石、話題の作品と言われるだけあった。


しかし、見ている途中、隣の隣からすすり声と鼻をかむ音で集中出来ないところがあった。え?これも作戦の一つなの?


見終わった後、俺と柚羽は作品の感想を言い合っていた。


「ラスト感動したね〜、あんなカップルになりたいな〜」


「ああ、なれるといいな」


そんな話をしていると、ふと後ろから話しかけられた。


「あれ?ゆうくん、映画館来てたんだ!」


「ああ、姉さん…」


何も知らないような反応で、話しかけてきた。


「で、あなたが…」


「…あ、私、優弥くんの彼女の福尾柚羽です。よろしくお願いします、お姉さん」


「ええ、よろしく」


柚羽はいつもより低いトーンで未那に自己紹介をする。それと同じトーンで、未那は返事をする。


…あれ?なんかやばくね?


女心が分からない俺でも分かる。これは修羅場だということを。

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