第8話 姉妹の過去 瑠那side
……
「……はぁ…」
また起きてしまった。時計を見ると、まだ日付が変わったばかりだった。
「何だよ!大体お前は……」
「違うでしょ!それは……」
ああ、まただ。一階のリビングから聞こえてくる、両親の罵声。
どうやら両親は何かで喧嘩をしているらしい。どんな内容で喧嘩をしているかは分からない。ただ、睡眠の妨げになるからやめて欲しい。
幸いにも、口喧嘩だけで終わっているからか、両親に怪我の痕は見られなかった。
でも、当時小学校六年生の私には、罵声だけでも刺激が強かった。早く仲直りして欲しい。
そんな事を考えながら天井を見ていると、いつの間にか静かになっていた。両親の口喧嘩が終わったのだろう。
やっと静かになった寝室で、私は目を閉じる。
◇
翌朝、いつものように服を着替え、リビングに向かう。
父親は椅子に座りながら新聞を読み、母親は朝食を作っていた。
日が経つにつれて、二人の会話が減っている気がする。やはり心配だ。
寝ぼけ眼を擦り、椅子に座る。ぼーっとしていると、朝ごはんがテーブルの上に置かれていた。今日はトーストと目玉焼きとベーコンだ。
ぺろりと平らげ、洗面所に向かい顔を洗い、歯を磨く。
今日は休日だ。本が好きな私は、最近図書館によく行く。
図書館に行き、本をただひたすらに読む。これが私の好きな時間だった。
しかし最近、本を読むよりも気になる事がある。
それは私がいつも座る席の対角線上に座る男の子、私よりも恐らく歳上だろう。
そんな彼はいつも同じ本を読んでいる。少し分厚い小説をずっと読んでいるのだ。
分厚いとはいえ、ここ最近の彼はずっとその本を読んでいる。
そんな彼が気になってしまい、中々読んでいる本に集中出来ない。
まあ、彼を気にしてしまったのは、恐らく恋愛感情ではないだろう。
当時の私には好きな人がいなかったため、恋愛感情というものがよく分からなかった。
しかし、そんな彼の事が気になって仕方が無くなった私は、勇気を出して、彼に話しかけた。
「あの、なんでいつもその本を読んでいるんですか?」
本を読んでいる彼にいきなり話しかけてしまった。話したことも無い初対面の女子から変な質問をされて、きっと私を変わり者だと思うだろう。
しかし、彼は特に困った様子もなく、私の質問に答えてくれた。
「んー、この本が好きだからかな」
何気ない至って普通の答え。でも、私には何故かそれが特別な答えに感じた。
その日を境に、私は彼と会話するようになった。
彼は優弥という名前らしい。「いい名前だね」と褒めると、彼は少し顔を赤くしながら「ありがとう」と言ってくれた。
おすすめの本の話、好きな作者の話。彼と好きな話題で会話する時間は、とても有意義で楽しい時間だった。
しかし、そんな楽しい時間は唐突に終わりを迎える。
◇
朝、いつものようにベッドから起き上がり、リビングに向かう。
そこには、テーブルに置いてある一枚の置き手紙と、それをまじまじと見つめる父親の姿があった。
ずっとその手紙を見ている父は、私の存在に気付かずどこかに行ってしまう。
テーブルに置いてある手紙を見るとそこには母親の字で『今までありがとうございました。探さないでください。』とだけ書かれていた。
当時の私には、あまりにもショックな出来事だった。ただただ胸が痛かった。私のことをここまで大切に育ててくれた優しい母親がいなくなった現実を、受け止めきれずにいた。
私は外に出て、走った。何でそうしたかは今の私にはよく分からない。多分、現実逃避したかったんだと思う。
私は迷いなく図書館に向かって走った。土砂降りの雨の中、傘をささずにひたすら走った。
図書館に着くと、その日は図書館は休みだった。しかし、何故かそこには彼がいた。まるで私の事を待っていたかのように。
「今日、休みみたいだよ」
そう言った彼に私は泣きながら抱きついた。
きっと彼は戸惑っただろう。しかし、彼は何かを悟ったのか、無言で私の頭を撫でてくれた。
そこで初めて、私は恋愛感情というものを知った。
この時はお互い、まだ知らない。数年後、二人が兄妹として再会する事を……
…
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ストーリーが重くなり、あまあまでイチャイチャな展開が少なくなっていて申し訳ないです…
次回は未那sideをお送りします。また重くなるかと思いますが、ご了承ください。
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