第9話 姉妹の過去 未那side
……
「……もう……」
また起きてしまった。やっと眠りにつけたのに。
時計を見ると、日付が変わってからすぐだった。
「もういい加減にしてよ!大体あなたが…」
「何だと!これはお前が……」
はあ、またやってる。一階のリビングから聞こえてくる、両親の罵声。
両親は喧嘩をしているらしい。それもあってか、最近家にいても何も楽しくない。それに、喧嘩の声がうるさいせいで寝不足気味なのだ。
当時、中学二年生の私でさえこんなにストレスが溜まるのに、妹の瑠那の事を考えると、とても可哀想に感じる。いい加減、早く仲直りして欲しい。
数分後、一階からうるさい声が聞こえなくなった。喧嘩が終わったのだろう。
ようやく静かになった寝室で、私は再び目を閉じる。
◇
翌朝、いつものように制服に着替え、リビングに向かう。
父親は椅子に座り朝食のトーストを先に食べていた。
「おはよう、パパ」
「おはよう、未那」
何気ない挨拶をした後、私も椅子に座る。
両親はお互いにしっかりコミュニケーションをとっているのだろうか。心なしか、両親どうしの会話を聞いていない気がする。とても心配だ。
まだ覚めていない頭を無理やり叩き起し、朝食のトーストを頬張る。
食べ終わった私は、洗面所に向かい洗顔をし、歯磨きをする。
今日は平日だ。準備が出来た私は母親に「行ってきます」と言い、家を出る。
学校に着いた私は、いつものように仲のいい友達と会話をしながら朝のホームルームを待つ。
先生が来た。そして話が終わり、授業が始まる。
そんな、何も無い普通の学校生活を私は送っていた。
でも、そんな普通の私には最近、気になる人がいる。それは、この学校の生徒会長の先輩だ。
先輩はとてもかっこよく、頼りになる存在だ。でも時々天然な所があって、そこが可愛いと思う。生徒会に入っていた私は、そんな先輩が憧れだった。
あわよくば先輩と付き合えたら…そんな叶いもしない妄想を頭の中に繰り広げる。
しかし、生徒会に入っていたのが功を奏したのか、いつの間にか私は先輩と会話をする程に仲良くなっていた。
話をしている時の先輩はとても優しく、私の事を考えて話を聞いてくれているのがよく分かった。
私が少しからかって、「先輩かっこいいですよ♪」と言うと、先輩は「やめろって…」と言いながら赤くなった顔を必死に両手で隠していた。
学校についての話、お互いのプライベートの話、そして恋バナ。先輩と会話をしている数分間はどの時間よりも楽しい、最高の時間だった。
でも、そんな楽しい時間は長くは続かなかった。
◇
朝、寝ぼけ眼を擦りながら階段を降り、リビングに向かう。
そこには瑠那が何時にもなく真剣な顔で、一枚の紙を見ていた。
どうしたのだろうか、話しかけようとした瞬間、いきなり瑠那は玄関に向かって走っていった。
そこに残されていた、一枚の紙。内容を読む。
『今までありがとうございました。探さないでください。』
母親の字で、はっきりとそう書いてあった。
私は悪い夢だと思った。しかし、瑠那の真剣な表情を思い出し、これは夢ではないことを悟った。
その日は学校だった。私はこの事を信頼出来る先輩に相談したくてたまらなくなった。
急いで準備をして、家を出る。先輩と私の家は近い。きっと今頃なら、一人で学校へ歩いているはずだ。
私は、今にも涙が出そうになる目を擦り、歩いている先輩を見つける。
しかし、そこには先輩だけではなく、一人の女子が隣で腕を組みながら歩いていた。二人はとても仲が良さそうだった。
女子の顔を見ると、私の友達だった。
私は絶望した。元来た道を戻り、家に入る。
とてもじゃないが、学校に行けるほどの元気が無かった。私はその日初めて、無断で欠席をした。
ただでさえメンタルが弱い私には、今日の出来事には耐えられなかった。
もう死にたい。そう思った私は夕方、重い体を引きずりながら橋の上に来ていた。
手すりに手を掛ける。下には線路があり、電車が走っていた。
今しかない、飛び降りようとした私に、一人の男の子が話しかけてきた。
「やめなよ、そこから飛び降りるなんて」
私よりも恐らく年下だろう。そんな彼は、私の事を止めてくれた。
「辛いことがあったんでしょ?僕で良かったら、話聞くよ?」
初対面のはずの彼は優弥という名前らしい。優弥はまるで先輩のように、私の話を真剣に聞いてくれた。
彼は私のヒーロー、そう感じた瞬間だった。
そして数年後、二人が姉弟として再会する事をこの時はまだ、誰も知らない……
…
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
これまた重いストーリーになってしまいました…申し訳ない…
次回からは再び、あまあまでイチャイチャな展開になるかと思いますので、しばしお待ちを……
新ヒロインも登場予定ですので、お楽しみに!
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