誰ひとり傷つかない究極不条理デスゲーム
ちびまるフォイ
本当の恐怖は「死」ではない
『全員目ヲ覚マシタヨウダナ。
君タチノ首ニハ爆弾ガ巻キツケラレテイル』
密室に閉じ込められた4人の男女は、四方の壁にはりつけにされていた。
両腕両足が拘束されている。中央にはモニターがある。
「ここはどこなんだよ!?」
「お願い! 家に帰らせて!」
「私が何したっていうんだ……」
「黙ってろよ! 話が聞こえないだろ!!
見てわからないか! 俺たちはデスゲームに参加させられているんだよ!!」
それを聞いた3人の顔がひきつった。
デスゲーム。
その単語を聞いただけで無残に自分の頭部が爆散するイメージが容易に思いついた。
『ククク。理解ガ早イヨウダナ。
デハ、ルールヲ説明シヨウ。
コノ映像ヲ見ルノダ』
部屋のどこからか聞こえてくる機械音声。
カチッとなにかを操作する音が聞こえた。
密室の中央に置かれているモニターに電源がついた。
動画再生プレイヤーが起動し、全画面表示になったそのとき。
その画面を遮るようにウィンドウが表示された。
『更新プログラムを構成しています ....0%
PCの電源を切らずにそのままお待ち下さい』
「……」「……え?」「えっと……」
デスゲーム参加者は呆然とアップデートのパーセンテージが貯まるのを見守るだけの謎のブレイクタイム。
ちょいちょいマイクからは「エ?」「ナンデ動カナイノ?」などの独り言を拾って密室にむなしく反響。
『少シ待ツノダ……。ソノ間、神ニデモ祈ッテイルンダナ……』
とってつけたような言い訳に参加者一同は苦笑い。
100%まで溜まった瞬間、PCを映したモニターでは嬉しそうにマウスカーソルが再生の「▷」を連打していた。
『更新プログラムインストールしています...0%
インストール後は自動的に再起動されます』
『ちょっと! なんでインストールするのよ!!』
「今、声変換器入れ忘れたな……」
「テンパってるんだよきっと」
「いつまでデスゲーム開始待たされるの……?」
参加者は段取りの悪い死刑執行人の作業を待つこと数十分。
やっとこさ再起動が終わって、「デスゲーム」と書かれたフォルダにある動画ファイルがもう一度開かれた。
『ククク。待タセタナ。人生ヲ悔イルコトハ出来タカ?
コレカラ、オ前ラハ生キテイルコトヲ後悔スルダロウ』
映像が再生される。
血塗られた実験室のような場所で覆面をした人が身振り手振りでなにやら説明している。
参加者は目を凝らしていて気づいた。
「音、出てなくね?」
映像では首輪の恐ろしさを伝えるべく、人形を使った爆発なども見せているものの音が出てないので臨場感はゼロ。
字幕もないのでルールを説明しているようだがまるで聞こえない。
それはゲームマスター側もスクロールバーが半分を通過した段階で気づいたらしく、バタバタと慌ただしい生活音が聞こえてくる。
静寂の密室にはゲームマスターの声がつけっぱなしのマイクから聞こえてくる。
『あ、もしもし? お客様窓口ですか?
なんにもしてないんですけど、パソコンが壊れたんです』
『本当に何もしてないんです! え? 症状?
音がでないんです。昨日はちゃんと音出てたのに……』
『ドライバー? なんですかそれ。車じゃなくてパソコンですよ。
ふざけないでください。音がでないって言っているじゃないですか』
デスゲームのおぞましきルール説明の映像を見ながら、
お客様窓口の副音声を聞かされるという謎の時間。
動画が終わると、再生リストに入っていた子猫の動画がはじまる。
「あ!」という音とともに映像が止まった。
デスゲーム参加者はお互いの顔を見合わせた。
「ルール、わかった?」
「覆面していたから口の動きもわからないし……」
『いいだろう。特別にもう一度だけ流してやろう』
「だから声の変換忘れてるって」
デスゲームルール説明ビデオは間髪入れずにまさかの再放送。
あいかわらず音声が出ていなかったため、ゲームマスターが動画を見てのアテレコになった。
『ゲームのルールは簡単だ。えーと、制限時間内に、この、タイマーがはじまる。
それで、たしか……ああ、そう、首輪が連動していて、えっと……あれ』
「なんだこの下手なゲーム実況みたいな説明は」
ちょいちょいマイクには「ペラ」とページが行き来する音も聞こえ、取扱説明書を読んでいることは容易に想像できた。
『首輪を外す方法はひとつ。……あ、ふたつね。ひとつはーー』
全員が聞き耳を立てたとき、ピンポーンという音が遠くから聞こえた。
ドタドタと遠ざかる足音が聞こえたあと、ガチャとドアの音も聞こえてくる。
「うそ!? このタイミングで離席するの!?」
「脱出のルールのところだぞ!?」
デスゲーム参加者の焦りとは裏腹に、密室に響くのは玄関先でのゲームマスターのやりとり。
『あ、うち本当にそういうのいいんで……』
『幸せじゃないとか、そういうのではなく……』
『今ちょっと忙しいんで帰ってもらえますか?』
なにかしら勧誘を受けて焦るゲームマスターの肉声が密室に響く。
ろくに説明を受けていないままにタイマーが自動でスタートしてしまう。
「おいちょっと! 首輪タイマー作動したぞ!」
「え!? 結局、どうやったら脱出できるの!?」
未だにゲームマスターは玄関先でひと悶着。
パソコンはスリープモードに入ったのか、モニターは真っ暗になっている。
もうルール動画すら見れない。
「助けてーー!! 誰かーー!!」
「俺たちはなんのデスゲームに巻き込まれてるんだ!」
「せめてちゃんと説明してくれぇぇぇ!!」
死の恐怖というよりも、わからない恐怖にデスゲーム参加者は戦慄した。
無慈悲にも首輪と連動しているタイマーは制限時間を刻む。
必死に体をよじったりしながらあがくデスゲーム参加者。
しかし、拘束は解除されずわけのわからないままタイマーは残り5秒。
5
4
3
2
1
0。
タイマーが0になった瞬間。
自動スリープで真っ暗だったはずのモニターがふたたび表示された。
『アプリケーションを正しく起動できませんでした(0xc0000142)。
[OK]を押してアプリケーションを閉じてください』
画面には「×」と大きく表示されたアイコンが出ていた。
デスゲーム参加者はほっと胸をなでおろすとともに、残念そうな顔をした。
というのも、密室には相変わらずマイクONのままのゲームマスターの悲痛な叫びが聞こえていた。
『えええ! なんで! 昨日のリハではうまくいったじゃない!』
と。
やがて聞こえてきた遠ざかる足音を最後に静かになった。
「なんだったんだ……」
「まあ、とにかく生きていてよかった」
「この首輪はタイマー爆発しないってことよね?」
「でもこれからどうするんだよ」
「もう1回デスゲームやるとか?」
「別の日に開催されるんじゃないか」
4人で話し合っていると、嫌な考えが頭をよぎった。
「まさか……俺たちこのまま殺されるんじゃないか?」
「ど、どうしてそんなことがわかるのよ……」
「だって、デスゲームのルールを知ったからには延期なんてありえないだろ!
その時間の間に解決方法を考えられるし、タイマーの意味もない!」
「べ……別のデスゲームに変更されるって可能性もあるじゃないか」
「バカ! すでにデスゲームに参加させられるとわかっているだけで
いくらでも対策できるって点では同じだろ!」
「それじゃ私達……デスゲームに失敗したからこのまま全員殺されるの!?」
「どうせもともと脱出に失敗してタイマーも切れたんだからな……」
「さっきの遠ざかっている足音も、きっとここで直接手をくだしにくるんだろう……」
「いやぁぁぁ! 死にたくない!! こんな意味わからない死に方はいやぁぁぁ!!」
望みもむなしく、密室の外からカツカツと高い足音が近づいてくる。
「ゲ……ゲームマスターだ……」
「近づいてきてる。この部屋に来るんだ……」
「ああ、もう終わりか……」
「やっぱり私達は殺されるのね……」
全員から生きる望みが失われたとき、密室の扉が外から開けられた。
逆光を受けて出口に立つゲームマスターは叫んだ。
「この中で、パソコンに詳しい人ーー!」
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