第20話 裸の大将

「ぼぼ、僕は、おお、おにぎりが好きなんだな」


 松本は大学の食堂でおにぎりを食べていた。

 

 下宿のご飯をサランラップでにぎり、中には食堂にあったおかずを適当に入れた手作りおにぎり。


 火事で一張羅の服を全て焼失した松本は、近くの服屋『Mos House』で買った再安の白いTシャツと半ズボン、サンダルが定番の服装。


 大学で好きな娘がいるわけでもないので、恥も何もない。


 学食で友人から食べ物をめぐんでもらっていた。


「松本、これもやるよ」


 半田はんだが優しく唐揚げを1つ分けてくれる。


「今度オレの服で着てないやつあげるから、アパートに来なよ」


 白滝しらたきの言葉に涙が出そうになる。


「ありがとう」


 そう言いながら白滝の食べ終わった味噌ラーメンのどんぶりを受け取り、残った汁をすする。


「君ねぇ、そんなことして恥ずかしくないの?」


 平泉ひらいずみだけは同情を一切せず、むしろ


「恥ずかしいから近寄らないで」


 と辛辣に拒絶してくる。


 松本は絶対に次の麻雀で勝って平泉の金で服を買うと心に決めた。


「ねぇ松本くん、これから晴れるよ?」


 そんなやりとりを見た池谷いけたにが笑顔で励ましてくれる。


 しかし残念ながら明日は曇りだろう。


 さっき背後ですでに今日のイケパンは白であることを確認済みだった。


 彼氏がいようとパンツの色は確認するのが常識だ。


 学校の帰り、松本はレンタルCDショップ『GUO』に寄っていった。


 あの夜ちょうどレンタルしていたCDがあり、燃えてしまったので謝るためだ。


 一週間の返却期限が来た。


 ガラス張りの入口が自動で開くと


「いらっしゃいませーー!!」


 と威勢のいい男性の声が聞こえて少しひるむ。


 カウンターにいた男性スタッフに近付いて声をかける。


「あの…借りていたCDが燃えてしまって…」


「あぁ、あの火事の!少々お待ちくださいませ」


 木枯町ではあの火事のことを知らない人はいなかった。


 夜中にあれだけ激しく燃えたこともある。


 でも一番の理由は放火の疑いがあるのに犯人がまだ捕まっていない、とニュースや新聞で取り沙汰されているからだ。


 下宿生8人の中に犯人がいるのか?


 それとも下宿生の誰かが恨みを買って火をつけられたのか?


 警察による捜査は続いている。


「お待たせしました。紛失の料金はいただきませんので大丈夫です」


 GUOの対応に感謝して


「ありがとうございます」


 とお辞儀した松本は


(いつかお礼しにこよう)


 と考えながらとぼとぼと帰路についた。


 いつもなら拾う空き缶が足元にあっても気付けないほど、松本は寝不足で疲れてしまっていた。






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