第18話 安心プラン
「7月14日夜23時頃、
こんな見出しでテレビや新聞の県内ニュースを賑わせているのだろう。
特に
なんでも、火事をいち早く発見し、各部屋にいた下宿生に声をかけて避難誘導したのだとか。
みんなパニックになり自分のことで必死だったはず。
(オレなら見逃しちゃうね)
松本はそんなことを考えながら真っ黒に焦げた大きな木片をどかしてみる。
第二萌木荘の中央、自分の部屋があったであろう場所の下あたりを漁っていた。
見渡すと焼け残った黒い柱があちらこちらと5~6本直立していて、かろうじて二階だったであろう床もわずかに残っていたりする。
立派だった螺旋階段や長年雨風を凌いできた屋根も壁も焼失した今、もはや二度と登ることのできないその二階の床。
ぼーっと見上げているとその向こうの青空が眩しかった。
立ち入り禁止のテープをくぐり、燃え残った思い出の品を探して下宿生たちはそれぞれ第二萌木荘の跡地に侵入して掘り返していた。
松本は奇跡的に焼け残った、端の焦げた卒業アルバムや、ケースが溶けて歪んでるけどディスクは無事なCDなどを見つけて
「あの放水も無駄じゃなかった」
と感謝した。
あたり一面に立ち込める独特な鼻に付く焼け焦げた臭い。
苦いというよりどこか甘い焦げ臭さ。
その臭いが燃え残った中学時代の写真や大切なCDにこびりついて、新しく「火事」という思い出を強制的に上書きしている。
火災保険に入っていた学生は8人中3人しかいなかった。
起きる確率の方が圧倒的に少ない火事に対してわざわざ年間8,500円、卒業まで34,000円払う人の方が少ないのだ。
しかしそこはさすが松本の母。
A型の血が騒いだのか入学時に火災保険へ加入しており、松本は失った家財道具について書類で申請することができた。
パソコン20万円
衣服10万円
CD10万円
CDコンポ2万円
電話機5千円
などなど、新品ならこれぐらいしたという金額を思い思いに書いた。
全焼なので証拠などない。
そのままの金額が来るわけないと、思い入れある品は『貴重品』とわざとらしく備考に書いてみたりする。
まさか満額50万円が自身の口座に振り込まれるとは思っていなかったので、銀行の通帳を記帳したときに松本は震えた。
それを黙って自分のものにしようとしていたら父親から電話が来て
「新しい家財道具や年間の学費を誰が払ってると思ってる!!」
と「コラ!のびた!!」的な展開にまたまたなり、滅茶苦茶怒られて父親の口座に移したのは誰でも予測できた結果だったはず。
一時の金に目が眩んだあわれな息子。
遠くの実家から駆けつけてくれた両親に頭をさげて新しい布団、CDコンポ、パソコン、電話機をねだる。
そうこうして松本含む下宿生8人は新しい生活をスタートさせていく。
焼け出されて強制的に移り住むことになった廃屋、
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