第17話 焼失
初めて間近で見る火事は想像と全く違っていた。
子供の頃あこがれた、火事場で逃げ遅れた人を助け出す
とんでもない。
今、松本は炎に包まれて激しく燃える
50m距離をあけてもあまりの熱さに顔から汗が吹き出す。
見ているだけで眼球がヤケドしそうなほど痛い。
薄目でまばたきしながら手を目の前にかざして、じりじり後ずさりしてしまう。
仮にあの中に逃げ遅れた人がいたとして助けに向かうことができる人などいるわけがない。
木造二階建て20部屋は巨大なキャンプファイヤーと化していた。
その炎は高く高く、見上げると7mは立ち上っている。
消防車2台による必死の放水も効いている気配はなかった。
こんな狭い住宅街の、なるほどこんなところからホースで水を招き入れるのかと消防職員の仕事に思わず感心してしまう。
ふと右隣を見ると、長い髪を後ろで束ねた大屋さんの奥さんがいた。
大きく目を見開いたままピクリとも動かない。
それもそのはず。後で聞いた話では火災保険に入っていなかったらしい。
立ち尽くす大屋さんを見て松本は
「シロアリが燃えたのは良かった」
なんて不謹慎なことを一瞬考えてしまい、慌てて頭を振って視線を火事の現場へ戻した。
「下宿生8名全員の無事を確認!」
警察が慌ただしく声をかけあい状況を報告している。
ペンを持った警察官から声をかけられている
もちろん松本も現場についてすぐに警察から対応されている。
「あ!!」
2階の真ん中の部屋から
ボン!!
と音がして火柱が空へ向かって上がると同時に誰かの声が響いた。
そこは松本の部屋だった場所。
今爆発したのは愛用のパソコン?
学校で使うノート
実家から持ってきた卒業アルバム
せっせと集めたCD
タンスの奥に隠していたエロ本
すべて燃えてしまった。
不思議と松本は怒りも悲しみも感じなかった。
昨夜まで寝泊まりしていたところへ放水される絵面がおかしくすら思えた。
(もういいよ。全部燃えていい。あの頃夢見てた二人はもうそこにいない)
「明日から何着ようかな」
そんなことだけ心配していた。
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