第16話 赤い日の出

「酔っぱらったまま海に行くなよ!!」


 浜辺に落ちている使い捨てられた花火や空き缶を拾いながら松本は友人の哲士テツに声をかける。


 テツが青いジーンズの裾をまくり上げ、毛深いすねをあらわにするのが見えたのだ。


 7月14日(土)、歴史研究会の集まりの後、サークルのメンバー男性12人女性6人合計18人は木枯浜こがらしはまへ花火兼酒飲みをしに来ていた。


 松本としては昨年の海で溺れかけた嫌な記憶がまだ新しく参加するか迷ったが、一緒に行くことで酔っぱらいが海に入ろうとするのを防ぐことができると考えを改め同行を決めたのだった。


「松っちゃんも来いよー!!」


「わかった今いくー!!」


 松本は同い年で仲の良いテツに心にもない返事をしてせっせとゴミを集めて袋に入れる。


 酒の缶は置いたまま、花火のゴミは散らかしたまま…松本はとても仲間とワイワイ遊んで呑める心境ではなかった。


 暗い浜辺である者は恋話こいばなに花を咲かせ、ある者は怖い話で盛り上がっている。


「ここの海では毎年、足を捕まれて沖へ引きずり込まれる人がいるんだって……わぁーー!!」


「きゃーー!!」


 ため息をしながら松本は半ズボンから見える自身の足首に視線を移す。


(その話は身を持って知ってる)


 案の定始まった木枯浜恒例の怖い話に聞き耳を立てながら、松本はプール監視員さながら夜の海をパトロールして回る。


 23時になったところで、松井部長がお開きの合図としてみんなを集めて締めの言葉を述べた。


「それではみなさん、忘れ物のないように帰りましょう。解散!」

  

 頼れる部長がそう言ったものの、松本の立ち回りのおかげで浜辺にはゴミ一つない。むしろ来る前よりきれいになったくらいだ。


 みんな財布と携帯を確認したら早々に各々ゴミ袋を持って歩き始めることができた。


「あれ、西の方やけに明るくない?」


「本当だ。赤い日の出みたい」


 前を歩く女子たちの会話が聞こえるのとほぼ同時に、


ウゥウゥウウウウ!!


 けたたましい消防車のサイレンの音が1台、また1台。もう1台。


 やがて救急車のサイレンも入り交じりただ事ではない様子で次々とあの赤く明るい光の元へ向かっていく。


「あの方向は…」


 松本が向かう第二萌木荘だいにもえぎそうの方角と同じだった。


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