69.慣れない文章を書くこと
なんだか最近、とても忙しい。理由はわかっている。今年度最大のプロジェクトに組み込まれてしまったからだ。しかも割と要職である。技術と役割が見合っていない。人手不足による苦渋の選択なのだろう。会社も大変だな、と他人事みたいに考える。しかし与えられた仕事はしないといけないので、キーボードを叩いてはため息をつく日々が随分長く続いている。
もしや、これが鬱っぽいというやつなのだろうか。遂に私にもそういう情緒が芽吹いたのだろうか。先輩に尋ねたら「絶対違う」と断言された。繊細な後輩に随分と冷たい仕打ちである。悲しいので煙草を吸いに外に行って、ついでにソシャゲのガチャを回したらレアキャラが出た。今日はとても良い日である。祝福が私の上に降り注いでいる。
兎にも角にも、目下の課題は山積みのドキュメント。これがなかなか曲者で、普段私が書かないような文体で記載しなければならない。一行二行ならまだいいが、五十ページを超える文量だと話は変わってくる。自分の中にあるいくつかのフォーマットが切り刻まれて崩されていくような感覚に陥る。
極端な例を挙げる。普段の書き方が以下だとする。
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
これを以下のような書き方に変える。
旧くより語り継がれし話とし、時系列で示すために「昔々」とする。或る場所、そこを山村と定義して良いか不明であるため固有名詞などは避けて「或る場所」と定め、これを甲とする。甲に内包される私有地を乙とし、乙に占める住居で生活する老人と老婆がいた。この老人と老婆は夫婦関係にある。年齢ならびに出生については不明とする。
これぐらい違うことをしないといけないので、腕も指も痛い。ついでに頭も痛い。段々と自分が書いている文章に自信がなくなってくる。どこか変だと気づきながらも、何が変なのかわからない。何しろ自分の中に正解となる文章がないのである。
昨日も勢い良く十頁分書いたはいいが、そこで見事に力尽きた。そして「気分転換に小説でも書こう」とカクヨムのページを立ち上げた。しかし、書いた文章に何も納得が出来なくて消してしまった。文章として意味は通じる。だが、その前の話と全く文調が違うのである。読む人からすれば大した差はないかもしれない。しかし、書いている側からすれば大問題だ。小説で私が大事にしているのはテンポだ。テンポが崩れたらその先に進めない。うっかりそれを崩して放り投げてしまった小説が山ほどある。
今書いているのは投げ出したくないので、結局文章を消した後に書き直すこともしないでページを閉じた。こういうときはリフレッシュをするに限る。しかし何でリフレッシュをすればいいのか。まぁ書くしか無い。書くことで書くことの滞りは解消される。走るためには走らなければならないのと一緒である。そんなわけで、このエッセイを書いている。なんかいつもと微妙に書き方が違うなと感じ取った人は鋭い。一つの文章がいつもより短い。
仕事による文章への影響については、しばらく諦めることにした。どうせいつかは終わりが来る。ハッピーエンドではなさそうだ。まぁそれでも終わるだろう。要員が倒れたり、プロジェクトが頓挫したり、そういうバッドエンドでなければいいのだ。皆で仲良く地獄に行こう。そんなスローガンを掲げて、今日も仕事に取り掛かる。
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