53.土の中にあるもの

 数年前に実家に帰ったら、庭一面に石砂利が敷かれていた。その前に帰った時には、十年以上前に敷いた砂利が所々ハゲてしまって、下の地面が顔を出している状態だったので、突然の変貌に驚いた。それも結構綺麗な石で、種類は色々混じっているようだが、庭全体を覆っているために却って統一感すらある。

 片田舎なもので、庭だけは結構広い。十メートル四方は優にある空間の隅々まで石はしっかりと敷かれていた。

 感心している私を見て、母親が得意そうに話しかけた。


「見違えたでしょう?」

「随分頑張ったね。高かったんじゃない?」

「それが笑っちゃうのよ。この石、通りすがりの人に売りつけられたのよ」


 母親が言うには、こういうことだった。

 ある日、庭先で花に水をやっていたところ、石を積んだトラックが家の前を通りかかった。車の通りも少ない場所で、しかもトラックなんて軽トラぐらいしか見かけないのが常である。珍しいなと思っていると、トラックから人が降りてきて、母に話しかけた。


「すみません。石を買っていただけませんか?」


 話によると、そのトラックは某県にある会社の持ち物で、ある商談のために遠路遥々「サンプル」を積み込んでやってきたらしい。商談は無事に終わったのだが、1トンを超す「サンプル」を、また会社に持って帰るのが面倒になった。サンプルなので、多種多様な石をまとめて持ってきてしまい、これを持ち帰っても選別作業をしなければいけないらしい。

 面倒だなーと思いながらトラックを走らせていると、丁度いいサイズの庭を見つけ、一か八かで売り込みに降りて来たと言う。

 母は少し考えたが、単刀直入に値段から聞いてみることにした。


「それで幾らだったの?」

「全部込みで十万よ。土も綺麗に平面に均して、その上に石敷いてくれたの」


 あの出来ばえで十万は破格だ。余程その石が邪魔だったのだろう。

 しかも土まで均してくれたということは、造園業かなにかの会社なのかもしれない。


「裏庭まで敷いてくれたのよ」

「仕事が細かいね」

「しかもね、庭に突き刺さっていた謎の金属棒も抜いてくれたのよ」


 金属棒?

 この家に生まれ育ったが、そんな存在を初めて知った。

 母親が言うには、庭の中央に金属製の棒が複数突き刺さっていて、祖父や父が何度か頑張ったが抜けず、仕方なく放置していたものだと言う。


「土を均す時に、棒の先端が出てきてね。困ってるって言ったら、あっという間に抜いちゃったのよ。ビックリしちゃったわ」


 そういう危ない存在は、子供にも教えておいて欲しい。場所を聞いたら、車を停めている位置から殆ど離れていなかった。危ない。しかし、既に危機は去っているので、何とも言えない感情のみが残る。


「まぁ庭も綺麗になったし、良かったね」

「それが、良いことばかりじゃないのよ」


 母は「いやねぇ」と言わんばかりにため息を吐いた。

 なんだ。確かに話が旨すぎると思ったが、何か落とし穴があったのか? 追加料金の請求とか、石自体に問題があったとか、そもそもそんな会社が存在しないとか。この時代、なにが起こってもおかしくない。そう思って身構える。

 すると母親は裏庭の方を指差した。


「あの人たち、ポチのお墓の盛り土まで綺麗に均しちゃったのよ!」


 裏庭に行くと、確かにポチ(仮名・享年十四歳/黒柴)の墓があったあたりが、綺麗な平面になっていた。わぁ、プロの仕事って凄い。どこにポチ埋まってるか全くわからない。ポチー、ポチ、どこー?


「プロって凄いねぇ」

「凄いわよねぇ」


 今は、おそらくポチが埋まっているであろう場所に木の枝が刺さっているが、もしかしたら違うかもしれない。ポチが地中で光ったりしてくれないかな、と思っている。

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