51.乾燥は色々と敵

 また更新が空いたのは、まぁいつものことである。今回は徹夜しなくて済んだ。少なくとも午前三時にはホテルにいたし、四時にはベッドに潜った。起きたのは六時だ。酒が無かったら寝れなかっただろう。ナイトキャップというやつである。

 三連休の初日がそんな状態だったうえに、次の日には病院から「このマスクをつけないと、出入りしちゃ駄目」と医療用マスクを渡された。不織布で出来たマスクなど比べ物にならない、しっかりとした構造のやつである。紐はアジャスターで調整するもので、耳には引っ掛けずに首と頭に通すような形になっていた。

 朝からつけていた普通の不織布マスクを外して、それを装着する。息がしにくい。素晴らしい密着性だ。いつもなら横サイドから外気を感じるのだが、それがない。アメスピのフィルターを常に咥えているような圧迫感だった。

 だが全く息が出来ないわけではないので、一時間もしないうちに慣れた。慣れると今度は別の問題が生じる。


「鼻痛くないですか?」

「淡島さんもですか」


 一緒に仕事をしている人が、痛そうに鼻頭を抑える。

 密着させるために、平たい金属の板みたいなものが鼻の部分に入っているのだが、それが容赦なく皮膚を圧迫するので痛い。鼻が低いせいだろうか。かといって金属を緩めるとマスク自体がずり落ちるので、結局鼻の痛さに耐えるしかないのである。

 しかも時期は冬である。乾燥する。乾燥した肌を固いマスクの縁が抉る。これをつけて仕事をしている医療従事者の方には本当に感謝しかない。たかがSEが痛いだのなんだの騒ぐ資格はないのである。


「あれ?」


 ふと、近くにいた別の人が私の顔を見て首を傾げた。


「かりすちゃん、前髪がうにょんってなってるよ」


 同じ睡眠時間のはずなのに髪型をしっかりと決めた彼女は、私の適当極まりない前髪を見て、哀れみを感じたようだった。

 うにょんってなってるのはいつものことなので、「あぁ、はい」なんて返した時だった。相手が私の前髪に手を伸ばそうとしているのに気がついた。

 やばい、と思ったが声が出なかった。ただでさえコミュ力は低いのに、寝不足のうえに低血圧の朝である。本能が警鐘を鳴らしても、体が全く動かない。

 止める間も無く、相手の指が私の髪に触れる。その刹那だった。


 バチンッ


「あっ」

「痛ぁ……」


 特大の静電気の音が、冷たい廊下に響いた。

 そう。猫っ毛で乾燥しやすいので、静電気が溜まりやすい体質なのである。だから冬は気をつけているのだが、まさか触られるとは思っていなかったので油断した。想像以上に大きな静電気が走った額は地味に痛い。


「ご、ごめんね」

「だ、大丈夫です」


 地味に痛いことばかり続く。

 最悪なことに、その日の予定は「端末百台を巡回して設定する」だった。筋肉痛待ったなしである。きっと数日は地味な痛さが続くことだろう。

 本年最初の仕事は、あまり幸先がいいとは言えなかった。

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