40.徹夜の過ごし方

 暫く更新が途絶えたのは、何のことはない。デスマーチだったからである。

 作業的にはあまり大したことはないのだが、徹夜したせいで疲れてしまった。コロナのせいで仕事が減っていたので、久しぶりの徹夜にダメージを余計に負ったというのが本当のところである。

 徹夜のお供と言えばエナジードリンク。職場の人間は皆頭のネジがフジッリパスタで出来ているので、「どのエナジードリンクが効くか」を日々研究している。先日の徹夜作業でも、プロマネがエナジードリンクを「これが効くんだよ」と自慢気に持って来た。

 見かけないメーカーだったので手を出さずにいると、外から戻って来たBさんがそれを見て微妙な顔をした。


「それ飲みました?」

「いえ。美味しくないんですか?」

「いや、味はよくあるやつなんですけどね。効果が……」


 Bさんは一度周りを見て、プロマネがいないのを確認してから続けた。


「効きすぎるんですよ」

「効くならいいじゃないですか」

「効き目が切れた時に死にそうになるんです」


 何それ怖い。

 そんなの完全にヤバイものではないか。そんなものを持ち込んでしまっていいのか。ここは病院だぞ。


「プロマネさんがね、この前二徹してた時に見つけて来たんですよ」

「アウターゾーンの世界だったら、間違いなく最後に死ぬやつじゃないですか」

「そうかもしれない」


 お互いに徹夜中なので、頭の中のフジッリパスタはボロボロである。

 結局そのエナジードリンクには手をつけずに、病院のロビーで売っていた珈琲を飲むことにした。虎穴に入らずんば虎子を得ずだが、別に虎の赤ちゃんは今いらない。平和に安全に過ごすに限る。


 個人的に徹夜の時には、何もしないようにしている。珈琲ぐらいにしか手を出さない。淡々と過ごすのが一番ダメージが少ないと信じているからだ。なるべく心穏やかに、水とか飲んで、虚無の中で仕事をする。この時に考え込んでしまってはいけない。自分が徹夜しているという事実をなるべく頭の中から追い出して「仕事をしている時間がたまたま深夜なだけ」と脳に誤認させる。うっかり現実を見たが最後、眠いし疲れるしお肌の調子も悪いので不機嫌になってしまう。それは良くない。


 というかこんなことをしなければいけない時点で、徹夜なんてすべきではないのだ。このシステムはどうにかならないものか。せめて人数増やして昼夜交代にしませんか。そう訴えたい。人手が足らなすぎて無理だが。


 多分私の徹夜テクニックがこれ以上成長することはない。なぜなら、成長させる気がないからだ。虚無に過ごすことに慣れてしまったので、もうこれからアクティブな方向に舵を切ることは出来ないだろう。

 なので今後は積極的に若手を育てて、そっちに徹夜を押し付けたい。もう元気にアクティブに徹夜をしてほしい。

 そんな切実たる思いが通じたかどうかは定かではないが、今年も私のチームに新人は付かなかった。全員固辞したらしい。悲しいので今日も虚無に仕事をする。この夜もきっといつかは終わるのだ。多分。

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