38.集中力がない人間の脳内回路

 高校時代に地学の授業で、某ジブリの一場面を見せられて「此処に描かれている地層から、この土地ではどのような変化が起きたか考察せよ」という課題を出されたことがある。此処で求められているのは勿論「デカいミミズクみたいなのがドングリ拾ってました」とかそういう答えではない。「基盤となるのは洪積層である。更新世からの形成と推定される。火山灰の堆積が見られる箇所は関東ローム層であり、その下層(断層が見られる)に隆起があることから南北に掛けて河川があったことが推察できる」といった解答である。公立の普通科高校で問われる内容かよ、と当時は思ったが私立でもあまり無さそうだ。お世辞にもあまり真面目な生徒ではなかったので点数はお察しである。


 考察することは嫌いではないが、興味がないと碌に頭が働かない。無理矢理集中させる時には、一度息を吸ってから吐く。吐く動きに合わせて意識を対象物に埋め込むようなイメージを作っている。要するにポーズだ。格好から入るタイプというやつである。

 後輩から送られてきた数ギガバイトのログファイルからエラーを探すという面倒な作業とか、現地で急に動かなくなった設定ファイルの検証だとか、あるいはExcelにまとめた膨大なリストを見なければいけない時とか、そういう場合に上記の手法を使う。

 しかし油断すると意識が対象物から切り離されてしまうので、その前に再度集中する。それを只管繰り返す。真面目で集中力がある人がとても羨ましい。このエッセイを書いている時だって、油断すると「そういえばドナー隊の遭難は何年に起きたんだっけ?」とか余計なことを考え始め、気付けばチャップリンの「黄金狂時代」を想起して、更にそこから「ライムライト」を思い出して泣きそうになっている。情緒不安定というより思考が不安定だ。でもライムライトは傑作だと思う。


 と、こんな具合で私の思考は常に迷子である。どうにかすれば頭の中を綺麗に整理出来る気がするのだが、それを考えている間にまた迷子になり、紆余曲折の果てに頭の中で某ロボットのパイロットが「アバヨ、ダチ公!」と言いながら合体解除スイッチを押して終わる。


 人間の知識も地層みたいに年齢ごとに綺麗に積み重なってくれればいいのだが、そう上手くはいかないらしい。仕方がないのでマグマみたいな知識の中から、今日も必要な記憶をかき集めるのみである。

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