33.一緒に仕事をするorしない
仕事の相性というものはあって、特に互いに過失がなくとも、仕事のペースやアプローチが合わない人とは、出来れば仕事をしたくない。避けて通れるならそうしたい。
私はかなり適当でフィーリングで物事を進めるので、きっちりかっちり物事を決めて進めたい人からは「あまり一緒にはやりたくない」と思われている。別にそのこと自体はショックでも何でもない。「同じクラスにいるから友達でしょ」みたいなのは小学校までで十分だ。互いに精神的な充足が得られて仕事ができるなら、一緒に仕事をしないのも世渡りの一種である。
先日、知らない番号から電話がかかってきた。
出てみたら、やっぱり知らない人だった。いや、顔と名前は知っているのだが、所属が違うので話したことはない人だった。
「すみません、急にお電話して」
「いいですけど、どうかしましたか?」
接点がないので、電話を掛けてきた理由がわからない。残暑の染みる歩道橋の上で、不審を語尾に詰め込みながら尋ねる。相手は言いにくそうにしながらも切り出した。
「今度、S市病院の仕事がありまして」
「あぁ、来月のやつですね」
「……手伝ってくれませんか?」
仕事の依頼だった。非常に意外だ。
スマフォのスケジュール表を見て、該当日を確認する。特に予定は入っていないので引き受けることは可能だった。しかし、何となく嫌な予感がしたので聞き返す。
「あの、手伝いと言いましたが具体的には?」
「……担当システム全部ですかね」
それは手伝いとは言わないのでは。慣れてるけど。そういう状況慣れきってるけど。現地行ったらサーバが動いてないとか、初期状態のままとか、酷い時はOSすら入れてなくて全部やったとかあるけれど。
しかし、この病院の立地はいい。美味しいラーメン屋さんが近くにある。きっと手伝ったら一杯ぐらい奢ってもらえるに違いない(希望的観測)。
安い打算が働いて、「いいですよ」と返した。相手は感謝しながら電話を切った。
数日後に別の病院に仕事で行くと、マネージャーがいたのでそのことを雑談代わりに話してみた。すると相手は悪びれもせずに言った。
「知ってるよ。携帯番号教えたの俺だもん」
「別に社用携帯だから構いませんけど、教えてくれって言われたんですか?」
最初に依頼されたのがこの人で、面倒くさがって自分に回してきた可能性が無きにしも非ずなので聞いてみる。疑われた相手は気を悪くすることなく否定を返した。
「違うよ。前から「仕事頼むならXさんやYさんより、淡島さんのほうがいい」って言ってたからだよ」
「……一緒に仕事したことないんですけど、その評価は何処から来たんですか」
「あれ? したことないの?」
「したことある人は、私の携帯番号知ってるでしょ」
「でも「淡島さんのほうが仕事しやすい」って言ってたよ」
怖い怖い。何だそれは。
一緒に仕事した記憶なんてない。それどころか電話かかってくるまで、挨拶以外に喋ったことすらない。可能性があるとすれば、どこかの稼働のヘルプで呼ばれて、そこに一緒にいたかもしれないが、私の仕事の仕方なんて確認出来ないだろう。
大変な人違い、または噂話に尾鰭がついたパターンではないだろうか。それぐらいしか思いつかない。「淡島ってこういう人間だよ」みたいな噂話が、私の知らないところで流れていて、それが姿を変えてあの人の耳に届いてしまったのではないだろうか。「スペインっていいところらしいよ。ヨーロッパに行くならスペインだね」みたいなノリで「淡島って仕事するらしいよ。一緒に働くならあいつだね」的な。
こうなったら優秀な社員の振りを貫くしかない。人は期待値が高いほど、仔細な欠点が許せなくなると聞く。少しでもミスをしたら、今度は「あいつは仕事出来ないから、アサインしないほうがいい」という噂が立ってしまう。風評被害だ。
後々の精神的充足のために、暫くはいつもより少し真面目に働くことにする。
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