18.多分スパムメール

 コロナの影響で上半期の仕事が減ってしまったが、減った分をどこかで補完しないといけないので、色々と大変である。もっと仕事が欲しい……と狂ったことを考えながら飲む麦茶は苦い。


 仕事をしたいわけではないのだが、仕事がないストレスというものは結構大きい。それに普段から二つ三つの仕事は掛け持ちをしているので、急に減ると心身に負荷がかかる。忘れかけていた人並みの生活が襲いかかってくる。


 いつもなら疲れて帰ってきて寝るだけなのに、今ではテレワークで規則正しい生活を送ってしまっている。床のゴミは敵意を向けてくるし、洗濯物のシワは私を嘲笑う。今まで気に求めていなかったことがどんどんと浸食してくるのだ。この前なんてプレッシャーに負けてカレーを小麦粉から作ってしまった。雪平鍋を買ってそら豆を茹でてしまった。このままではいけない。そのうち吸引力の変わらないただ一つの掃除機を買ってしまう。


 そんなことを考えていたら、同僚からメールが来た。某病院の切替にアサインされたらしい。「抽選の結果」と書かれていたので、スパムだと思う。応募していない懸賞に当たったと連絡が来るのはスパムの常套手段だ。

 しかし、今は仕事に困っている。貰えるものは貰っておこうと、スパムの主に電話をかけた。


「どこの病院ですか?」

「群馬。ほら、数年前にやったXXの近く」

「あぁ、それなら知ってます。で、いつなんですか?」

「正月」


 下半期の仕事か。上半期が欲しかったのだが。しかし今は少しでも仕事が欲しい。ここで引き受ければ、そのプロマネが持っている他の仕事も落ちてくる。

 正月であることについては別になんの疑問も抱かない。正月は仕事をするのがデフォルトであり、仕事がないと戸惑ってしまうからだ。人は環境の変化に弱い。去年の正月は大変だった。急に休みになったので何をすればいいのかさっぱりわからなかった。


「上半期ないんですか? 暇なんですけど」

「折角だから勉強でもしてたら? ネットワーク関連弱いでしょ」


 痛いところを突かれてしまった。

 勉強……勉強か。全然気が進まないな、勉強。だって根気強さとかがないから。それと向上心。創作なら何時間でも書いていられるが、ネットワークについて学ぶのは五分が限界である。

 勉強したくないから仕事がしたい。そんなことを思う夏の夕暮れ。

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