12.ひよこは最奥でにわとりになる
大人になってくると、自分の中では常識だと思っていたことが世間一般からはズレていることに気付いたりする。これが箸の持ち方だとかお手洗いでの作法であれば矯正されていくのだが、日常生活において必要がない事柄だと、特に意識することもないまま年月が過ぎていく。最近は、世の姉妹の大半は将棋で遊ばないことを知った。妹とはよく小学校の頃に将棋を指して遊んだものである。生憎とお互い頭が良くないので、いつも決まった盤面にしかならなかったが。
ボードゲームは好きだ。シンプルであればあるほど良い。ルールが決まりすぎていると、覚えるのに必死になって二度と遊ばない。麻雀はあれほど皆やっているのだから、ルール自体はシンプルなのだろうが、アドバイスをしてくる人が多くて少し覚えただけで手を引いてしまった。私は地道にコツコツと自由にやりたいタイプなので、「ここでそれ切っちゃだめだよ」だの「普通こんなことしないから」とか言われると、途端にやる気が失せる。
言っている本人に悪気はないのだろうが、こちらはまだゲームの面白さを探っている最中なので放っておいて欲しい。喩えるならば、興味のあるアニメやドラマを見ていたら、見ている最中に横から今後の展開を説明されるのに等しい。いいから一話目は静かに見させてくれよ、となる。
話は変わって今年に入ってすぐの頃、友達に誘われてボードゲームカフェに初めて足を踏み入れた。ドリンク代と時間料金を払えば店にあるボードゲームを自由に遊べるというものである。
オーソドックスなものから見たことがないものまで揃っており、しかも全部オシャレで可愛かった。二人で行ったので二人用のものしか選べなかったが、それでも数は十分にある。まぁ大体世の中で何百年と遊ばれているボードゲームは二人用が多いから当然かもしれない。
いくつか選んで遊んでみてわかったのだが、凝っている見た目のものはルールがややこしく、シンプルな見た目のものはルールがわかりやすいものが多かった。
なんでだろう、と考えてみたが、多分遊んでいる最中にいかに思考を阻害しないかということだろう。例えば駒が二種類しかないのに、駒自体のルールが四種類あったら混乱するだろう。逆も然りだ。ルールと見た目は比例する。
「どうぶつしょうぎ」なるものがあったので、それにも挑戦してみた。「ひよこ(歩兵)」「ぞう(角)」「きりん(飛車)」「らいおん(王)」だけで構成されるシンプルな将棋で、元々の将棋のルールは知っているから楽だろうと手を出したのだが、これがなかなか奥が深い。すっかりはまって五回ぐらい対戦してしまった。
そしてカフェから出て、近くの家電量販店に赴いたところ、どうぶつしょうぎがゲームとして売られているのを見つけた。思った以上に人気があるようだ。「でも面白いもんね〜」と友達と言いながら、なんの気なしにゲームソフトの横に置かれた、ルールを説明するパネルを見て固まった。
ルールを間違えて遊んでいた。
元の将棋を知っていたせいで、ひよこがニワトリになる「成金」のルールを間違えたまま遊んでいた。本来なるべき場所よりも手前で駒をひっくり返していたのである。なにが「なかなか奥が深い」だ。お前の知識が浅いのだ。ひよこだって思わぬところで成長させられて戸惑いを隠しきれなかったことだろう。こんなに早く大人になるはずではなかったのだ。
常識だと思っていたことが正解だろうと不正解だろうと、それが先入観となってミスを導くこともある。とりあえず身につけるべき常識は「ちゃんと説明書は読むこと」だと反省した。
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